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AIでサプライチェーンに新たな価値を 日本アクセスのAIプラットフォームは、実用化フェーズへ

食品卸最大手の日本アクセスは、AI(人工知能)を活用して様々なリテールDXを手掛けています。2024年9月には、同社独自のAIプラットフォームを開発したことを発表しました。

AIを活用することで、小売企業はもちろん、食品メーカーにも新たな価値を提案できるといいます。今回は、既に効果があった事例を伺いながら、リテールDXの未来について紹介します。

「攻めのDX」で選ばれ続ける企業へ

「日本アクセスが、DXに力を入れる理由は大きく2つあります。1つ目が、少子高齢化による労働人口の減少への対応が求められること。もう1つが、取引先に選ばれ続ける企業になるためです」

そう語るのは、日本アクセス マーケティング部デジタルマーケティング課長の𠮷岡亮平さんです。

株式会社日本アクセス マーケティング部 デジタルマーケティング課長 𠮷岡 亮平さん

少子高齢化の今、どの業界でも人材不足が深刻な問題となっています。「卸売業は、労働集約型のビジネスで、多くの人の力で成り立ってきました。これまで人が行っていた作業をデジタルに置き換えることで、効率化・省人化がはかれると考えています」(𠮷岡さん)

食品卸を行う企業は、当たり前ですが、日本アクセスだけではありません。企業として存続するためには、取引先として選ばれ続けることが必要です。同社では選ばれるための「武器」として、 “攻めのDX”を掲げています。

一般的に、攻めのDXは取引先となるステークホルダー向け、守りのDXは自社向けの変革を指します。日本アクセスでは、小売企業はもちろん、食品メーカーにとってもメリットとなるDXを提案するといいます。

このDXでは、独自開発のAIプラットフォームを活用します。2024年9月には、4つの施策を発表。既に効果が出ているものもあるといいます。

棚割りの自動化でカテゴリ売り上げ3倍に

1つ目が「棚割り作成自動化AI」です。

棚割りとは、小売店舗の商品の陳列棚で、どの商品を、どこに、どのくらいの量、配置するのかを決める作業のことです。この作業は従来、小売企業のバイヤーと呼ばれる担当者が自身の経験をもとに、商品の選定や数量を決めていました。そのため属人化してしまったり、そもそも適切な棚割りができているかの判断ができていなかったりしました。

そこで日本アクセスでは、同社が持っているID-POSのデータと、その店舗で購買する人の属性などを照らし合わせ、棚割りを自動で作成してくれるAIを開発しました。
PoC(概念実証)では、高齢者の来店が多い郊外の店舗で実施しました。例えば、これまでその店舗では、一般的に高齢者の方々に好かれるシュークリーム1つ入りなど、食べきれるサイズのものを仕入れていました。

しかし、データを分析したところ、複数人でシェアできるサイズの購入が多いことが分かりました。そこで複数人でシェアができる、ファミリーサイズのティラミスを置くことを決定。すると、デザートカテゴリ全体での売り上げが、約3倍になりました。

「この変更は、人には決められなかったこと。データを活用することで、結果が出た好例だと思います。小売企業さまも『本当は分析して棚割りを行いたいがその時間が取れていなかった』と話しており、お役に立てたのでは」と、日本アクセスマーケティング部デジタルマーケティング課リテールAI推進担当の井川裕貴さんは話します。

株式会社日本アクセス マーケティング部 デジタルマーケティング課 リテールAI推進担当 井川 裕貴さん

その他店舗でも、それぞれPoCを実施しており、棚割りを担当する売り場全体でお店によってばらつきがありますが8〜25%ほど売り上げがアップするという結果が出ています。「棚割の実施がバイヤーさま一人ひとりに属人化してしまっていることもありますが、1店舗ずつ見ることにも限界があります。そのため、生活者のための品揃えでなくなっている部分もありました。AIの導入によって、チェーン店であっても、それぞれの店舗へ来店する生活者に合わせた品揃えの提案ができるようになります」(井川さん)

また、棚割りは多くの時間を費やす作業です。廃盤や季節物による商品の入れ替え、顧客のニーズや購買変化への対応、それらを店舗ごとに行う必要があるからです。

商品情報のメンテナンスなど、一部の作業は人間が行う必要はありますが、AIの導入により「約5割ほどの作業が削減できると考えています」と、井川さん。食品業界で考えると、数百億円規模のコスト削減につながるといいます。

“適利適売”を叶えるプライシングAI

2つ目が「プライシングAI」です。

近年、テーマパークの入園料などにも使われる「ダイナミックプライシング」という仕組みがあります。商品やサービスの需要によって価格を調整する仕組みのことで、これをAIによって自動的に行うのがプライシングAIです。

例えば、牛乳。1リットルの紙パック牛乳だと、会社のビル内にある店舗と住宅街にある店舗では、後者の住宅街にある店舗のほうが購入される確率が高いでしょう。1回ではなかなか飲みきれない大きな牛乳は、家用に購入されることが多いからです。

このように需要に違いがあるものであっても、どの店舗でも価格は同一に設定されていました。そこで、それぞれの店舗での購入頻度などをもとに、AIが自動で値付け(プライシング)するツールを開発・導入しました。顧客動向の事前予測をAIで行ったところ、93%の再現率を実現(2024年11月時点)。その予測情報をもとに、対象店舗の需要に適した店頭表示価格の設定を行いました。

顧客動向の予測とそれに合わせた価格の設定を、繰り返し行うことで、対象店舗では売上をほとんど落とすことなく、約6~20%の利益率改善を達成できました。 同社はAIを活用した価格の設定に加えて、事前に顧客動向を予測することができるため、顧客一人ひとりに合わせたマーケティング施策で、さらなる改善効果を生み出せると見込んでいます。例えば、ヨーグルトは継続して食べることで、健康作用が発揮するそうです。そのため、食品メーカーも継続して食べることを提案しています。

同社ではプライシングAIを活用して、継続して購入してもらうためには、どのタイミングでクーポンを打つと効果的なのか分析しました。そのデータに基づきクーポンを配布したところ、クーポンを打たない場合と比較して、自然離反する人が約8%も減少しました。

「ただ単に商品価格を上げたり下げたりするのではなく、適正売価が実現できるようになりました。バイヤーさまからも、売り上げや利益を高めるためにどうすればよいか相談されることが増えました。嬉しい変化です」と、井川さんは話します。

サプライチェーンを巻き込み、ロス削減へ

日本アクセスは、小売企業の売り場の中でも、デザートやチルドなど要冷蔵のカテゴリーを任せられることが多いといいます。「要冷蔵の商品は、賞味期限が短い商品が多くあります。そのため、在庫のバランスを取るのがなかなかに難しいカテゴリーです」(𠮷岡さん)

在庫が少なすぎると欠品となり「売り逃し」を起こすし、在庫が多すぎても食品ロスになってしまいます。そこで、同社は「在庫マネジメントAI」を開発し、現在実証実験を行っている最中だといいます。これが3つ目の施策です。

同社は小売店舗へ出荷した数量のデータを持っていますが、そのうち在庫は何個か、従来通りの価格で販売できたのは何個か、割引して販売したのは何個か、廃棄となってしまったのは何個か、それら販売・在庫のデータは持っていません。そのため、「この施策は小売企業さまデータ提供などの協力がないとできません。ID-POSデータと掛け合わせることで、チャンスロスも、食品ロスもしない在庫管理ができるようになります」(井川さん)

在庫管理が適切に行えるようになると、メーカー側にもメリットが生まれるといいます。「メーカーさまはなるべく欠品を生みたくないので、多めの在庫を管理しています。小売店舗の販売・在庫状況を共有することができれば、メーカーさまの在庫管理も無駄なく行うことができ、サプライチェーンとして大きな無駄の削減につながると考えています」と、井川さんは期待しています。

最後の施策が「流通業界特化型LLMの自社開発」です。

LLM(Large Language Models、大規模言語モデル)とは、生成AIの一種で、膨大なテキストデータを学習し、高度な言語理解を実現する技術です。これを応用したものだと、ChatGPTなどが有名ですね。

流通業界独自のものを作成することで、その業界に特化した応答が行えるようになります。

「これまで小売企業さまへの商品提案などは、かなり属人化していました。過去のデータを学習させることで、LLMが顧客のインサイトや問題点などをピックアップしてくれます」(井川さん)

過去のデータを元に、問題点の示唆出しや提案が行われるので、たとえ新人営業担当だとしても、経験に頼ることなく、企画書作成などに活かすことができます。ベテラン営業担当だったとしても、自分では気付かない点に気付くかもしれませんし、データを確かなファクトとして提案することもできるでしょう。

LLM(Large Language Models、大規模言語モデル)の画面イメージ

𠮷岡さんは「小売企業さまの課題解決のために取り組んでいるDXだが、メーカーさまの課題解決にもつながると感じています。小売企業さま、メーカーさまの両方にとって、なくてはならない存在になりたいです」と、強く意気込んでいます。

食品卸業のDXは、他業界からするとまだまだ遅れをとっているのが現状です。同社では、業界のパイオニアとして、DXに取り組み、実証実験から脱却し、実用化されるフェーズにたどり着いています。

「2025年の崖」という、経済産業省がDXレポートで指摘した問題があります。同社のDXは、自社だけでなく、サプライチェーンを巻き込み、この問題を解決してくれる可能性を秘めていると感じました。

▼参考記事

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この記事を書いたのは
サリー
趣味はお笑いと音楽のライブに行くこと。個人的通年の流行語は「抽選の結果チケットをご用意することができませんでした」。