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食品卸最大手の日本アクセスマーケティング部長と考える、小売DXを推進する立役者に求められる役割とは?

こんにちは、みんなのリテールDXのマナブです。

食品メーカーと小売業、あるいは外食業をつなぐ役割を担う食品卸業。経済産業省が2023年11月に発表した資料によると、食料品関連卸売業の産業規模は94兆8660億円(試算値)、事業所数は6万2600以上となっています。

その中で業界トップを走るのが株式会社日本アクセスです。23年3月期連結決算は売上高が2兆1975億円、営業利益は252億1800万円と過去最高を更新しました。要因はコロナ禍で主力の冷凍・冷蔵食品の取引が急激に伸びたことに加えて、酒類や菓子類といった領域を新たに広げるなど「フルライン卸」として戦略的にビジネス展開していることが挙げられます。

こうした事業成長を下支えするのが、同社のマーケティング部門です。近年、食品卸においてはマーケティングの必要性が一段と高まっています。今回は、その背景となる業界の最新動向や同社の具体的な取り組みを、日本アクセスのマーケティング部長 兼 リテールAI推進担当である今津 達也さんに伺いながら、小売DXを推進する立役者に求められる役割について考えます。

日本アクセスの今津達也マーケティング部長 兼 リテールAI推進担当

今津 達也 氏
株式会社日本アクセス マーケティング部長 兼 リテールAI推進担当
大学卒業後、国内SI企業に入社。官公庁、地方自治体向け統計システム開発、民間企業向けBIツール開発など様々なデータ解析プロジェクトに従事。2014年㈱日本アクセス入社。ID-POS分析を通じて、多くの小売業様へのリテールサポート業務に従事。現在はマーケティング部長 兼 リテールAI推進担当としてAI活用促進などを手がける。

潮目が変わったID-POSの活用

「私たち日本アクセスの主な役割は物流です。商品そのものはメーカー様が、スーパーマーケットなどの売り場そのものは小売企業様が作るので、中間流通の私たちは極論すると商品を時間内に正しく運ぶことが仕事のほぼすべてでした。極端に言うと、その頃はマーケティングというもの自体が求められていなかったのだと思います。ただ、変化の激しい現在ではそうもいかず、我々も変化に対応する必要が出てきました」

今津さんはこう振り返ります。変化のきっかけはIT化でした。小売企業がPOSデータを開示し、メーカーがそれを基に新たな企画を考える「MD(マーチャンダイジング)研究会」が注目を集めました。

「当時、データをオープンにするので、データに基づいた施策を一緒に考えていこうという小売企業様が少しずつ増えてきました。ただし、データを分析して課題が見つかっても、最終的に出来ることは、売り場の品ぞろえを変えるなどに限られていました」

さらに、「POSデータは機密情報であり、他社には開示できない」と、当初はPOSデータを公開する企業が少なかったそうです。しかしその後、人口減少に伴う人手不足が小売業界を襲い、データ活用まで手が回らなくなりました。他方で、デジタル技術の高度化により、商品の購買情報だけでなく、顧客属性や購買動向までも取得できるID-POSが浸透。これによって自社だけで緻密なデータ分析などをするのは難しく、外部にサポートを求める動きが強まりました。そこで白羽の矢が立ったのが、メーカーと小売企業の双方をよく知る食品卸でした。

そうしたマーケットの期待に応えるべく、日本アクセスではデジタルに明るい人材を採用してマーケティング部に配属していきました。実は今津さんもIT企業出身です。

今津さんによると、デジタル活用を積極的に検討し、外部に相談をするのは、中堅クラスの小売企業が多いといいます。

「大手は自社でデジタル活用できる人員、組織が整っているケースが多く、数店舗の小売業様ではデジタル活用を進める人材がいないケースが多いです。デジタルに対する課題感は中堅の企業様が一番強いと感じます。何も手を打たないと競合他社に顧客を奪われてしまうリスクがある。データを公開し、新たな施策を講じることに前向きです」

現在、日本アクセスのマーケティング部では約80社の小売企業を支援し、案件数は年間600件に上ります。内容も、新店舗出店時の商圏分析からデジタルチラシなどの機能を備えたアプリ構築までと幅広くビジネスをサポートしています。

「情報卸」として小売DXを推進

もちろん、食品卸の同業他社も同様に小売企業の支援をしているわけですが、その中で日本アクセスの強みとは何でしょうか。今津さんは主に3つのポイントを挙げます。

一つ目は「DX」です。

「従来は小売企業様に対して商品を卸すことがメインでしたが、さらなる売上アップのためには情報も流通させなければいけません。そこでここ数年、『情報卸』というコンセプトの下、小売企業様のDXを推進しています。特に自社でアプリを開発したり、運用したりするのが難しいというお声をいただくため、その領域に踏み込んでいます。具体的にはグループ会社のD&Sソリューションズでスーパーマーケットに特化したSaaSサービスなどを提供しています」

実際には何年も前から小売企業でもアプリ開発などにトライしてきました。ただし、なかなかうまくいかないのは、運用に課題が多いことが要因だといいます。一例がデジタルクーポンです。割引ポイントの原資はメーカー負担のケースもあり、いかにメーカーに協力を仰ぐかが鍵。そこのコミュニケーションがうまく取れないことが多い。小売企業単独では難しくても、両者をつなぐ食品卸であればそれも可能なのです。

メーカーが一致団結して開催した「チン!するレストラン」

2つ目は、メーカーを巻き込んだ「企画力」です。

近年の代表的な事例は「チン!するレストラン」。これは22年10月に期間限定で開催したイベントで、約200品の冷凍食品およびアイスクリームの中から、来場者は好きなものを自分で“チン”して、食べ放題できるというもの。企画立ち上げの背景を、今津さんは次のように説明します。

出典:「チン!するレストラン」イベント専用サイト

「元々は冷凍食品、アイスクリームの販売促進施策でした。冷凍食品は食べる人と食べない人がはっきりと分かれていて、ある調査では後者が市場全体の6割を占めています。また、冷凍食品を購入している4割の顧客も、実際にはそれぞれが決まった商品しか食べないという状況でした。自分のお金を使ってまで新しい商品を試すことはほとんどなかったのです」

こうした状況を変えるためには、メーカー同士協力して取り組むのが現実的でした。そのための横連携を日本アクセスがコーディネートするとともに、何よりもまずは冷凍商品を広く消費者に食べてもらう機会を作ろうとしました。しかしながら、コロナ禍で試食販売や食フェスはすべてなくなりました。

昨年秋、ようやくコロナ禍が沈静化した隙を狙って開催にこぎつけました。

来場者自身でレンジを使って好きな商品を調理するスタイルで、1〜2日で賞味期限が切れるものでもなく、廃棄もほとんどありません。また、上述したように、既存の冷凍食品ユーザーも新たな商品をいろいろと試すことができるため、結果的に新旧ともに顧客の裾野が広がったとメーカーから高評価を受けました。

同イベントによる副次的な効果もありました。

「冷凍食品は、外の袋を開けてレンジに入れるタイプと、そのまま入れていいタイプがあります。でも、イベント時に本来ならば外袋を破って入れなくてはならない商品を、そのまま入れてしまったお客さんがいて、レンジの中で火を吹いたことがありました。それをフィードバックして、表示がわかりにくい旨を伝えたところ、すぐにそのメーカー様がパッケージを変えてくれたのです」

そのほか、メーカーとの取り組みでは「乾麺グランプリ」などを年次開催しています。23年は5月20日、21日に駒沢オリンピック公園で実施し、盛況のうちに幕を閉じました。

出典:日本アクセス プレスリリース(2019年開催時の様子)

日本アクセスの強みの最後は「営業力」です。

「データ分析するマーケティング部隊と、営業部隊の連携の強さが特徴です。同業他社の場合、マーケティング施策を小売企業様の現場にうまく落とし込めないという話をよく耳にしますが、当社は品揃え提案やクーポン販促などの施策をきちんと具現化しています。これができるのは、ひとえに現場の営業力が強いから。これが他社との差別化ポイントになっています」

スーパーマーケットに専任で社員を送り込む

これらの強みのうち、会社を挙げて今後もさらに伸ばしていくのがDXです。この点には服部 真也社長も覚悟を決めて、積極投資すると明言しています。それを如実に示すのが、ある先進的なスーパーマーケットとの協業です。

「その会社は、ある地域にメーカー様と当社のような卸を集めて、さまざまな実証実験を繰り返しています。また、月に1度、一週間缶詰になり、どうすればもっと効果的な施策を実装できるかなどを考え、成果を出し合う取り組みを実施しています。日本アクセスからは常駐で2人の専任者を送り込んでいて、毎月の会合には私も参加しています」

もちろん同業他社も人員を出しているとはいえ、日本アクセスは常駐させてもらい、かつ精力的に施策を打ち出すことに力を入れているといいます。こうした姿勢の積み重ねにより、このスーパーマーケットからも評価され、信頼を勝ち得ているようです。

属人的な業務をなくしたい

ここまでやるのは、ビジネスパートナーの1社だけでなく小売業界全体の業績を高めたいという切実な思いがあるから。そのためには今までのような属人的な手法から、デジタルを活用した科学的なアプローチが必須だと考えています。

例えば、小売業向けの棚割り作成業務。今まではメーカーの営業マンによるところが大きくて、何を並べるかというのは人の経験や勘、あるいは交渉力などで決まる傾向が高かった。データに基づいて自動で商品陳列の最適解を算出できれば、売り上げ全体がもっと伸びるはずだと今津さんは信じて疑いません。実際に、AIを活用した自動棚割りシステムの構築に挑戦しているそうです。

小売企業の現場で売れる商品が分かれば、メーカーにも的確な商品企画が提案できるようになります。日本アクセスとしてはぜひともこの領域へ踏み込んでいきたいといいます。

「ここ数年で力を入れているのが、川上側のメーカー様に対するアプローチです。メーカー様もどんな商品がヒットするか予測することが年々難しくなってきています。必ずしも毎回100パーセントの手応えを持って世に送り出しているとは言えないはずです。私たちとしては現場の販売データを把握した上で戦略的な提案をどんどんしていきたいですね」

最近、ある菓子メーカーがこれまで常温で販売していた商品を改良し、冷蔵タイプを出した際に、その販売方法を日本アクセスがサポートしたという事例もあります。その先の商品開発まで踏み込みたいと、今津さんは意気込みます。

メーカーと小売企業をつなぐ立場だからできること。その価値を発揮するイベントも実施しています。最たる例は年に2回行う展示会「Food convention」です。直近だと23年7月に1社単独でさいたまスーパーアリーナで開催し、2日間で1万2500人の来場と多くの方にお越しいただきました。

出典:日本アクセス プレスリリース(「秋季 Food convention 2023」を開催)

おせち料理もレンチンで

メーカーも巻き込み、小売企業様の売り場活性化に努める日本アクセスが、年末に向けて今まさに仕掛けているのが、乾物を使って手軽に作れるおせち料理です。

乾物は調理に手間がかかるため、簡便さを求める現代の消費者にとっては使い勝手の悪いものになっています。その課題を払拭するべく、レンジですぐにできるおせち料理の提案をしています。

「料理をする人が減っている上に、乾物を使う人も減っています。そこで今年はレンジで作れる乾物おせちを訴求しています。とにかく簡単にしないと誰も使わないので、ネットでレシピを紹介しつつ、売り場で商品をアピールしています」

コスパ重視の時代、より早くて便利でなければ消費者から敬遠されてしまいます。その点において冷凍食品は理にかなっているわけですが、乾物のような商品でもその消費者トレンドにチューニングしていく必要があるわけです。

食品卸、そして日本アクセスが世の中に創出できる価値はまだまだありそうです。

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この記事を書いたのは・・・
マナブ
全国各地を取材して回る日々を過ごす。大好きな90年代J-POPを流しながら、泡盛や焼酎を提供する小料理屋ごっこを妄想中。