コンテンツ出し分けで効果測定、その結果は「両方成功」。味の素AGFのリテールメディア活用術
コーヒーを中心とした嗜好飲料の製造・販売を手がける味の素AGF株式会社では、リテールメディアを活用した購買促進と顧客体験の向上を模索しています。
今回は、同社コンシューマービジネス部ショッパーマーケティンググループで新たなマーケティング手法の開発を担当しているグループ長代理の吉岡 聡史さんに、リテールメディアに対する考え方や今後の狙いなどを伺いました。
テレビCMやチラシでは捉えきれないユーザーの洞察を
同社のマーケティングアプローチの中心には「ショッパー」と「ユーザー」という概念があります。吉岡さんのチーム名にもある「ショッパー」とは買い物をする人、つまり購買行動の主体を指し、対する「ユーザー」は実際に商品を使用する人を指します。この区別によって、商品の購入体験から使用後の評価、口コミまでの顧客体験(CX)全体を、戦略的に捉えられると、吉岡さんは語ります。
「テレビCMを中心とした従来型のブランドマーケティングの価値はまだまだあると思いますが、現代の消費者の期待には、それだけでは十分に応えられない。味の素AGFとして、購買体験そのものから使用後の満足度までを、一貫して捉えていくことが重要だと考えています」
ID-POSとアンケートを活用してユーザーインサイトを明らかにできるリテールメディアは、まさに同社の戦略に適うものとして関心を寄せた吉岡さんは、「以前からID-POSを用いた購買データの分析は実施していた」と前置きしつつ、「リテールメディアのように、顧客との接点をより正確に把握し、深いコミュニケーションが可能になる点が大きなメリット」と話します。
従来のテレビCMやチラシだけでは、ターゲットへ適切にリーチできているかどうかを捉えることが難しいことを踏まえて、リテールメディアにおけるコンテンツの配信を通じて購買行動や消費者の反応を可視化。ターゲット層に最適なアプローチが何か、模索できる点に魅力を感じたそうです。
リテールメディアのコンテンツ出し分けで驚きの成果
吉岡さんは、これまでのマーケティング手法の一つの課題として、商品が持つ本来の価値を、生活者に伝えきれていない実情があるといいます。例えばテレビCMでは、セグメント横断的なメッセージを用意することを求められますが、購買意欲がある、または潜在層に伝えたいメッセージを直接的に伝えることは困難です。
これに対してリテールメディアは、「デジタルと店頭什器やPOP広告を横断し、購買行動を捉えることができるため、製品の本来の価値の訴求がどのように購買へと繋がるのかを理解しやすいと考えています」(吉岡さん)と話します。
実際に、味の素AGFが販売するスティックタイプのインスタントコーヒー「スティックブラック」における実証では、商品特性である「スティックを淹れてお湯で溶かすだけ(タイパ)」や「値ごろ感と味や利便性の両立(コスパ)」を訴求する漫画を、各スーパーマーケットのLINEミニアプリに配信してアンケート調査を含めて効果を測定。その後同じコンテンツを、店頭什器にも使用する計画を立てました。
タイパとコスパ、それぞれがスティックブラックの大きな特長であり、どちらのメッセージの方が現代の消費者に受け入れられて購買行動に変化するのか、A/Bテストとして検証しましたが、その期待は良い意味で裏切られます。
タイパを強調したキャンペーンでは購買が5.2倍に、コスパでも4.8倍の成果を上げており、異なるメッセージで購買結果の差を捉えるつもりが、共に成功と呼べる両者並び立つ成果となったのです。そのため店頭什器では、有用性が実証されたコスパとタイパ両方のコンテンツを、そのまま利用しています。
吉岡さんは「購買行動を可視化し、商品の価値を効果的に伝える手法であるリテールメディアのポテンシャルを大いに感じました。企画側が本来伝えたい商品価値を、正しく伝えることができた成果とその効果測定ができたのではないか」と言います。
リテールメディアを社内勉強会で説明、その先の狙い
リテールメディアの効果が実証された一方で、社内でその価値を広め、浸透させるには試行錯誤も。リテールメディアという言葉自体がまだ広く知られておらず、「営業支援のチーム等に、社内勉強会を通じてその機能やメリットを伝えています」(吉岡さん)という状況。その勉強会では「リテールメディアには3つの重要な機能がある」と説明して、その価値を理解してもらうそうです。
さまざまなマーケティング施策が走る中で、最適なリソースやコストのバランスを考えると、新しい試みのリテールメディアだけでなく、既存施策の継続も企業にとって重要です。リテールメディアの価値は、マーケティングの専門メディア等でも盛んに取り上げられていますが、営業等の他部門にはまだ遠い存在。それでも確かな成果を生み出したからこそ、吉岡さんは勉強会で丁寧に説明して組織にその意義や価値を浸透させようとしており、その先にはリテールメディアの更なる活用を検討しているそうです。
例えば今回の取り組みに似たような、商品の価値訴求と購買行動を相関分析することで、その結果に基づいた広告やPOPのバリエーションを増やす試みや、単純な情報接触によるリテールメディア経由の商品購入だけではなく、リピート購入を促進する施策を通してブランドへのロイヤルティを深めるといったブランドマーケティングに繋がる手法も検討できるといいます。
吉岡さんは「リテールメディアの可能性を最大限に活用し、消費者、メーカー、流通の三者が共に利益を享受できる新たなマーケティングモデルを模索していきたい」と、D&Sが目指すリテールメディアの未来とも合致する将来像を描いていました。
取材を終えて
今回の取材で吉岡さんは、「お客様に、商品の価値をどう伝えるか」を盛んに話されていました。「DX」と呼ばれる取り組みは、デジタライゼーションの時代とは異なり、人の感情を(擬似的と言えども)可視化して、どのようにお客様に寄り添えるのかをとことん考えられるようになりました。味の素AGFが取り組む「ショッパー」と「ユーザー」を分けて考える取り組みも、その一端と言えるのかもしれません。
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