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リテールメディア戦国時代 〜日本の課題と解決策をまとめてみた〜

みなさま、こんにちは。D&Sソリューションズの望月です。

今回は、小売企業さま・メーカーさまの関心が高まっている「リテールメディア」について、私たちが取り組んでいる事例を交えてお話できそうな段階になってきたので、これまで得た知見や考えていることを書き出してみました。相当長文ですが、これさえ読めば、リテールメディアの概要からアメリカ(米国)で起こっている大変革、米国と日本の違い、そして日本におけるリテールメディアの現在地や課題、今後の可能性などを網羅できるかと考えておりますので、ぜひ最後までお付き合いください。

私たちD&Sソリューションズは「情報卸」というコンセプトで、スーパーマーケット向けに、リテールDXを実現する業界特化型のSaaS(バーティカルSaaS)「RETAILSTUDIO」を提供しています。スーパーマーケットは「RETAILSTUDIO」を活用すれば、ダイナミックプライシング、デジタルチラシをはじめとしたサービスをスマートフォンアプリ、LINEミニアプリなどを通じて顧客に提供できます。
ちなみに、親会社である日本アクセスは日本最大手の「食品卸」として、小売企業さまとメーカーさま、そして生活者を”商品”でつないでおり、私たちD&Sソリューションズは”情報”でつないでいます。

このnoteを書いている望月については以下をご覧ください。

はじめに:このnoteを書いた理由

前提として、リテールメディアは日本市場においても大きな可能性を秘めています。また、日本の小売業界にとって、リテールメディアは大きな変革を起こす鍵となることは間違いないと断言できます。そのため、リテールメディアへの対応は小売企業さまであってもメーカーさまであっても必須になっていくでしょう。

一方、米国での大成功例をもとに日本でのリテールメディアの可能性や展開が論じられていますが、米国と日本では、そもそもの小売市場を取り巻く環境からして異なります。日経クロストレンドUnyoo.jpでもお話しさせていただいていますが、米国の事例をただ模写するだけでは日本での発展は難しいと考えています。日本には日本なりのやり方があると考えていますし、一定の答えも見えてきているのですが、私たちだけでは変革を起こせません。少しでもこの領域に興味を持ってくださる方が増えると良いなと思い、このnoteを書くことにしました。

このnoteでは、良いことも悪いこともぶっちゃけて書いていますが、大丈夫です!リテールメディアは日本市場においても大きな可能性を秘めていることは間違いないと信じています。
長文ではありますがリテールメディアに可能性を感じている皆さんはぜひ最後まで読んでもらいたいですし、欲を言えば一緒に市場を広げる仲間になってもらえると嬉しいです(ぜひお話ししましょう!)。
(望月Twitterアカウント:https://twitter.com/mczkhrs

第一章:リテールメディアとは

まずこのnoteで取り上げる“リテールメディア”の領域について説明します。
リテールメディアは、その言葉のとおり、「リテール=小売、メディア=媒体」のため解釈の幅が広く、例えばチラシや店内POPはリテールメディアに該当するのか、しないのか、の判断が分かれます。また、単にアプリやデジタルサイネージの話にとどまらず、広告IDや配信システム、CDP(顧客情報を収集、統合、分析するためのデータ基盤)、メーカー協賛の仕組みなど、相当広範囲かつ複雑になるため、このnoteでは以下の領域を“リテールメディア”として取り扱います。

リテールメディアに該当するもの】

  • メディアの場所

    • デジタル ※このnoteでは紙のチラシや店内POPは含めません

      • 小売企業の自社メディア

      • 小売企業のデータを活用したネットワーク広告

  • コンテンツ/広告の配信管理

    • WEBサイトやアプリにコンテンツや広告を直貼りするのではなく、「配信システム」を活用している

    • 小売企業の本部から一括で配信や停止ができレポートを出せるもの

  • 会員情報(ID-POS)との連携

    • 小売企業の会員情報(ID-POS)と連携しているか否かは問わない。(正直こちらは悩みましたが、連携を必須にするとデジタルサイネージが対象外になってしまうため)

いくつか例を挙げてみます。

  • 小売企業のアプリ(アプリ内広告含む)

  • 小売企業のWEBサイト(WEBサイト内広告含む)

  • タブレットつきレジカート(情報配信が可能なもの)
    ただし、「買う」機能だけのものはリテールメディアとは呼べない。クーポンも含む何かしらの情報が配信される必要がある

  • 小売企業店内のデジタルサイネージ
    米国では、冷蔵/冷凍ショーケースの扉がディスプレイになっており、そこに陳列されている商品名や価格、プロモーション映像が流れる。商品の魅力の訴求や、リモートでの価格の変更が可能になる。

(引用)https://www.coolerscreens.com/media
  • 小売企業が持つ会員情報(ID-POS)などのデータを活用して、アドネットワーク経由でメーカーのWEBサイト、オンラインストアやニュースサイトなどサードパーティー製のアプリやWEBサイトに広告を配信する

日本国内で注目を集めはじめているリテールメディアの取り組みをいくつかご紹介します。

【小売企業】
・セブンイレブン

・トライアル(スマートショッピングカート)

スマートショッピングカート次世代モデル発表(PDF)

・ファミリーマート(デジタルサイネージ)

・ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(デジタルサイネージ)
リアル店舗のメディア化による新たな顧客体験の創造「イグニカ(ignica )サイネージサービス」提供(PDF)

【リテールメディア支援企業】
・アドインテ

・エブリー

僭越ながら、私たちの取り組みもご紹介させてください。

・デジタルチラシ

・LINEミニアプリ

第二章:米国(アメリカ)におけるリテールメディア

米国の小売企業は以前よりリテールメディアに取り組んでいましたが、直近ではより力をいれており、また企業収益にも大きな影響を与えています。

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の影響で小売企業のオンラインストアの会員数が急増し、マーケティングに活用できる規模まで拡大した。また、オンライン決済比率の急増によりリテールメディアが売上に与える影響が可視化され、小売企業もメーカーも無視できなくなってきた

  • マーケティングテクノロジーの進化やデータ基盤の進化/価格低下により、従来実施できなかったレベルでのデータの管理・分析が可能になった

  • 小売企業がこれらの事実に関する情報を開示しはじめたため、他社も追従しはじめた

米国のリテールメディアの市場規模や、各社のデータについて調べてみました。※このnoteでは1ドル140円換算で記載しています。

【リテールメディア市場規模】

  • リテールメディア広告は2022年に408億ドル(5.7兆円)に達する見込み

  • 2026年には2倍以上の850億ドル(11.9兆円)になる予測

https://www.statista.com/statistics/1346356/ad-spend-retail-media-us/

【Amazon(アマゾン)】

・米国のリテールメディアにおけるデジタル広告費の75.6%を占めている(注目すべきはここ)

https://www.statista.com/statistics/1346379/ad-spend-retail-media-platform-us/#statisticContainer

  • Amazonの広告セグメントの売上高は、2021年は311億ドル(4.3兆円)、2021年10-12月は97億ドル(1.3兆円)で前年同期比32%増

Walmart(ウォルマート)】

・広告事業の売上高は、2021年は21億ドル(2,940億円)

https://corporate.walmart.com/media-library/document/q4-fy22-earnings-release/_proxyDocument?id=0000017f-0521-deb8-ab7f-372d1d5a0000

  • 2021年8月17日の決算説明会において、米国におけるWalmartの広告事業の売上高が「ほぼ2倍」になったことを明らかにした。また、出稿している広告主の数は、前年比で175%増加。広告事業の売上高も同期比で95%増加した。

  • 毎週2億3,000万人以上が店舗に来店(2022年)

https://www.statista.com/statistics/818929/number-of-weekly-customer-visits-to-walmart-stores-worldwide/

  • Walmart.com (https://www.walmart.com/) には、毎月1億人を超えるユニークユーザーがアクセス(2022年)

【Target(ターゲット)】

  • 食品小売ではWalmart、Krogerに次ぐ小売企業。

  • 店舗数は約2,000で売上高は1,060億ドル(14.8兆円)。(2021年)

  • オンラインストアには、毎週4,100万人を超えるユーザーが訪問していて、実店舗では毎週3,300万回の買い物がなされている。(2019年)

  • Targetが運営する広告事業「Roundel(https://roundel.com/ )」の売上高は2021年に10億ドル(1,400億円)。早期に20億ドル(2,800億円)にすることを目指している。

Kroger(クローガー)】

  • 米国35州で2,700店舗を運営し、6,000万世帯の顧客がいる(2022年)

https://www.statista.com/statistics/241209/number-of-supermarket-stores-of-kroger/

  • アルバートソンズとの統合で8500万世帯に

  • 毎日1,100万人の顧客がいる

  • 店舗売上の96%がポイントカードを経由しているため、広範で貴重なファーストパーティデータ(小売業が独自に収集/所有する顧客の購買/行動データ)が収集可能。また、ファーストパーティデータを広告主に提供しており、DSP(Demand-Side Platform)などを通じてKrogerのWEBサイトの外で広告配信が可能に。

https://www.marketingbrew.com/stories/kroger-private-marketplace-first-party-data-programmatic

すべてを網羅できているわけではありませんが、いくつかピックアップしただけでも、どの会社もすさまじい数字であることがわかると思います。
日本においてもリテールメディアが来るぞ!という雰囲気になるのも納得ですね。

第三章:日本におけるリテールメディア

日本におけるリテールメディアはまだまだこれからだと考えていますが、トレンドがきていることは明らかです。2022年には多くのメディア(媒体)がリテールメディアをテーマに特集を組んでおり、大きな転換点が来たと感じています。

【ダイヤモンド・チェーンストア 2022年10月15日号】
ねらうは『収益化』だけじゃない!「リテールメディア完全案内」

【日経クロストレンド「リテールメディア大研究」】

一方で、小売企業さまやメーカーさま、仕組みを提供する支援企業の準備が整っているかと言われると、まだその段階には達していないと感じています。「リテールメディアに本気で取り組んでいます!」と自信を持って言える企業は、そう多くはないのではないでしょうか。「リテールメディアは最近話題だけど、実際どうなのよ?」という温度感であることがほとんどだと考えています。

私は、“このまま”では日本のリテールメディアは米国ほど成長しないと考えています。なぜなら、日本と米国ではリテールメディアを展開する「小売業界」において6つの違いがあるためです。

小売業界における日米の6つの違い

小売業界における日本と米国との違いは6つあります。

  1. 小売企業の市場占有率

  2. 小売企業の規模

  3. テクノロジー

  4. 小売業界の人材の流動性

  5. メーカーの組織構造

  6. オンライン広告の広告単価

1:小売企業の市場占有率

  • 米国

    • ハイパーマーケット(HM)市場占有率
      4社(Walmart、MEYER、Kroger、Target)で98.8%(2021年)

    • スーパーマーケット(SM)市場占有率
      7社(Kroger、Albertsons、Ahold Delhaize、Publix、H-E-B Grocery、Walmart、Wakefern Food)で51.7%(2021年)

  • 日本

    • 総合スーパー(GMS)市場占有率
      4社(イオンリテール、イトーヨーカドー、イズミ、ユニー)で63.31%(2021年)

    • スーパーマーケット(SM)市場占有率
      7社(ライフ、西友、マックスバリュ西日本、オーケー、ヨークベニマル、ヤオコー、マルエツ)で21.1%(2021年)

※ダイヤモンド・チェーンストア 「2022年9月1日号 日本の小売業1000社ランキング」より筆者作成

米国では「強いスーパーがものすごく強い」ということがわかります。一方で、日本は米国ほど寡占状態ではなく、各エリアに強いスーパーマーケットがひしめき合っている状態です。メーカー目線で考えたときに「このスーパーマーケットをなにがなんでも攻略しないと、マーケットシェアを取れない!」という状況ではなく、「いかに多くのスーパーマーケットで取り扱ってもらえるか」が重要です。

小売業界が寡占状態の米国では、寡占している小売企業での売上を是が非でも獲得しなくてはならないため、メーカーはその小売企業のリテールメディアへ広告を出稿するインセンティブが働きます。また、小売企業も競合が少ないため、広告単価をより上げやすい傾向にあります。

一方、市場占有率が低い日本ではメーカーの広告予算が分散するため、小売企業1社あたりの広告予算が減少します。そのため、小売企業にとってリテールメディアの価格決定権が米国と比較してやや弱くなるため、広告単価を上げにくい状況になっています。(もちろん、リテールメディアの規模や、システムとしての完成度不足なども原因の1つです。)

2:小売企業の規模

小売企業の規模

  • 米国

    • Walmart
      売上高(2022年) 3,932億ドル(55.0兆円) 

    • Target

      • 売上(2021年):1,060億ドル(14.8兆円)

      • オンラインストアの売上(2022年):220億ドル(3.0兆円)

  • 日本

    • イオンリテール

      • 売上高(2021年) 1.8兆円

    • イトーヨーカドー

      • 売上高(2021年) 1.0兆円

      • ネットスーパー 会員数(2022年5月) 228万5,000人

      • ネットスーパー 月間PV(2022年5月) 2,283万PV

https://corporate.walmart.com/media-library/document/q4-fy22-earnings-release/_proxyDocument?id=0000017f-0521-deb8-ab7f-372d1d5a0000

https://www.statista.com/forecasts/1218314/target-revenue-development-ecommercedb

(出典)イトーヨーカードーネットスーパー広告サービス資料(PDF)

(出典)ダイヤモンド・チェーンストア 「2022年9月1日号 日本の小売業1000社ランキング」

日米では、大手小売企業の売上と客数の規模がまったく異なります。
なお、米国においてもリテールメディアの大半は、Amazon、Walmart、Target、Krogerといった大きなマーケットシェアを持っている企業であり、それだけの規模があるからこそ広告収益も多く得られてます。逆に規模が小さい食品小売企業のリテールメディアの成功事例はあまり見当たりません。

小売企業のオンライン展開(デジタル顧客数)

リテールメディアにおいては、広告効果に影響するため「デジタル」でリーチできる顧客数が求められます。
米国とくらべて日本の小売企業は「デジタル」でリーチできる顧客数が圧倒的に少ない傾向にあり、その要因として日米の小売企業におけるオンライン展開(WEBサイト/アプリ)のコアサービスの違いがあげられます。
米国の小売企業は、商品を購入できるオンラインストアがコアサービスであることに対して、日本の小売企業は主に店舗情報を閲覧できる「情報サイト」であることがほとんどです。ユーザーにとって利便性が高いのは情報サイトではなくオンラインストアであるため、その差が圧倒的なデジタルにおける顧客数の差につながっています。

また、米国の小売企業のオンラインストアは、オンラインで注文し自宅に届く「通販」に限らず、店頭受取や実店舗からのデリバリーなど受け取りチャネルを自由に選べます。現在日本で近い方法でオンラインストアを展開しているのは、スーパーマーケットではなくユニクロ/GU/無印良品/カインズ/ニトリなどになり、日米問わずこれらの企業のアプリは評価が☆4以上と、多くの顧客から評価されています。

  • ユニクロ https://www.uniqlo.com/

  • GU https://www.gu-global.com/

  • 無印良品 https://www.muji.com/jp/ja/store

  • カインズ https://www.cainz.com/

  • ニトリ https://www.nitori-net.jp/

3:テクノロジー

リテールメディアは、デジタルメディアであることや小売企業の顧客の購買情報などを広告に活用することを考えると、テクノロジーは重要です。

(1)テクノロジーへの投資(IT投資)
米国の大手小売企業は積極的にテクノロジーに投資(IT投資)しています。2018年には、Walmartが12億ドル(1,680億円)をIT投資に振り分けたというニュースがありました。これはAlphabet(Google)やAmazonに匹敵するほどの数字で、当時は米国第3位のIT投資額と、とてつもない投資額でした。
IT投資額は「小売企業の規模」に大きく影響を受けます。10店舗だとしても1,000店舗だとしても、1つのシステムを作るコストはほとんど変わらないため、規模の大きい小売企業ほどレバレッジ効果により1店舗あたりのシステムコストが小さくなります。

(2)システム開発体制(内製化率)
日本ではSIer(クライアントのシステム開発・運用などを請け負うサービス事業者。システムインテグレータの略)のサポート体制が手厚いため、システム開発を外部に委託することが多く、米国では小売企業がエンジニアを抱え内製化する傾向にあります。

ちなみに、Targetでは2015年ごろまで、システム開発の外部委託比率が70%を超えていたそうです。しかしながら、2013年のクレジットカード不正アクセス事件をきっかけに、イギリスの小売企業TESCOのCIOであるMike McNamara(マイク・マクナマラ)氏をCIOとして招聘し内製化を推進したことで内製化率は70%以上にまで高まり、2021年時点ではIT従業員4,000人のうち約8割をエンジニアが占めるまでとなりました。

米国においてもエンジニアの育成は難しい課題のため、採用育成するのではなくIT企業を買収する判断を取ることもあります。Walmartは、2011年検索エンジンの提供とデータ分析を行うKosmix(コスミック)を、2016年にはEC企業のjet.com(ジェット・ドット・コム)を買収しました。一方の日本では、規模の大きい小売企業が非常に少ないため、IT企業の買収のような手法は採りづらい状況です。よほど大きな企業でもないかぎり、IT企業を買収するほどの資本力はありません。

(3)経営者のテクノロジーに対する理解度
企業としてIT投資の金額やシステム開発体制を決定するためには、テクノロジーに詳しい経営者が必要です。
Walmartは、買収したEC企業のjet.comの創業者Marc Lore氏にWalmart.comの運営を任せています。
また、2017年には、TargetのCEO Brian Cornell(ブライアン・コーネル)氏が、今後3年で70億ドルのIT投資をすると宣言していました。当時のTargetの売上高が700億ドル(9.8兆円)であることを考慮すると、売上高に占めるIT投資の比率がいかに大きいかわかっていただけるのではないでしょうか。テクノロジーを良く理解している米国の小売企業の経営者にとっては、経営戦略としてIT投資が重要な要素だと捉えられています。

(参考)成長のための投資。ターゲット、急速に進化するゲストの好みに対応するため70億ドル以上を投じる

KrogerがIT業界で最も働きがいのある会社トップ100に選出
2022年12月に、Krogerは「IT業界で最も働きがいのある会社トップ100」(Computerworld’s 2023)に選出されました。これまでテクノロジーとは距離があった小売企業が、IT企業と肩を並べるだけでなくその中で上位にランクインするという変化は本当に目を見張るばかりです。

4:小売業界の人材の流動性

日本と比較すると米国は人材の流動性が高い傾向にあります。
Krogerは、2021年8月リテールメディア広告ソリューションの広告販売の責任者にAmazon(その前はinteger/TBWA)の幹部を起用しました。また、TargetもリテールメディアのリーダーにGoogleの幹部を採用しています。リテールメディア事業は、これまでの小売事業とは根本にビジネスが異なっており社内にノウハウがないため、事業化にはメディア事業や広告事業がわかる人材を責任者として抜擢することが必要不可欠だと考えたのではないかと推測しています。

一方で日本の小売企業の中途採用は、一部を除きメーカー、広告代理店やメディア経験者ではなく、小売業界の経験者が多い傾向にあります。小売事業であれば、比較的近いカルチャーをもつ人材を採用することで事業成長につながりやすかったのですが、リテールメディア事業においては異なる分野の経験者を組織内に取り込む必要があります。

5:メーカーの組織構造

米国のメーカーではブランドマネジメントの部門/担当者がマーケティング全体を統括しており、テレビCMなどのマス広告やオンライン広告などと同様にリテールメディアも担当しています。
一方、日本のメーカーでは組織構造上リテールメディアを管轄する部門が分断される傾向にあります。日本のメーカーには、各エリアに支店があり小売企業の商品部(バイヤー)に商品を営業する役割を担う「営業部門」と、個別商品の販売に紐づかない製品グループやブランドの認知/マーケティングを担当する役割を担う「宣伝部門」があります。
テレビCMなどのマス広告やオンライン広告をはじめとした「メディア」への出稿は宣伝部門が担っていますが、リテールメディアは小売企業が展開しているため、同じメディアでも管轄は営業部門であり宣伝部門ではありません。
そのためメーカーがリテールメディアに積極的に取り組もうとしても「予算」と「リソース」の課題が発生します。

  1. 予算
    全社の宣伝予算を増やさずにリテールメディアへの予算を増やす場合は、全社の宣伝予算を再配分することになります。他部署である宣伝部門に本来割り振られていた宣伝予算を奪う形になるため、営業部門は実施しづらい状況になります。

  2. 人的リソース
    営業部門の人材は、小売企業と向き合い自社の商品を営業する専門的な能力を持っていますが、リテールメディアを最大限に活用するために必要な専門的なマーケティングの知識や経験は持ち合わせていないことが多い。リテールメディアの管轄が営業部門であるため不慣れなリテールメディアに向き合う必要があります。

営業部門、宣伝部門の組織連携をより密接にし、適切に全社で予算、人的リソースをコントロールすることが重要です。

6:オンライン広告の広告単価

日米ではオンラインメディアの広告単価に大きな差があります。
たとえば、Google Adsenseの平均CPM(Cost Per Mille)単価は、日本が0.28ドルで米国が0.68ドルと、約2.5倍の差があります。他のオンライン広告においても、日本は米国と比較して低い傾向にあります。

第四章:リテールメディアの可能性

1:小売店舗におけるメーカーの販促/マーケティングの現状と課題

小売企業で販売している商品のうち約半数はメーカーの商品(残りは生鮮/惣菜)のため、従来から小売企業とメーカーはともに「販促」に力を入れてきました。例えば、小売企業はメーカーから販促費用を受け取り、メーカー協賛チラシを作成し、小売企業とメーカーの双方が売上増加を目指します。ただ近年では、新聞購読者数の減少によりチラシの効果が徐々に薄れてきており、チラシを減らす小売企業が増えました。

また、小売企業も他業種と同様に昨今の燃料費や人件費の増加の影響を受け利益はじりじりと減少していますが、小売企業は電気代が上がったとしてもすぐに販売価格を上げることはできないため、利益率を確保するためにはコストカットが必要になり、販促費用は削られやすくなります。

さらに、コロナ禍により店頭で試食サービスを実施できなくなったこともメーカーにとっては逆風です。メーカーの担当者から「食べてもらえたら、この商品の良さが伝わるのに……!」というセリフをよく耳にします。
コロナの影響もあり試食の機会が減少、またはなくなったため、売り場を持たないメーカーにとっては店頭で顧客と直接コミュニケーションを取れる機会が失われており、顧客の動きが掴みにくくなっています。

これまで多くのメーカーは販促/マーケティングの効果検証にあたり小売企業から提供される「POS」をもとに実施していました。ただし、POSはいわゆる統計情報でしかなく、顧客を識別した状態での効果検証は難しい状態でした。POSはあくまで小売企業の店頭における商品の販売状況を把握するためのものであり、マーケティング施策の効果検証を厳密に行うことはやや難しい。また、小売企業の会員情報(ID-POS)を小売企業から購入すれば、おおよその顧客特性はわかりますが、すべての小売企業が販売をしているわけではなく、メーカーにデータを分析できるメンバーが在籍しているとも限りません。また、たいていの場合はデータ提供はなにかしらのツール経由で開示されている場合が多く、分析軸は多くの場合決まっています。そのため、本当にメーカーが欲しい形式のデータが手に入るとは限りません。
このようにメーカーにとっては小売企業の店頭における販促の機会が失われ続けていることになり、店頭での顧客との接点が減るということは、商品を知ってもらう、思い出してもらえる機会が減ることになります。
もちろんメーカーは、店頭での顧客接点に依存しないように、ブランドコミュニケーションとしてテレビCMなどのマス広告やオンライン広告に取り組んでいますが、小売企業での販売においては、店頭での販促の影響は大きく代替はできません。

2:小売企業にとってのリテールメディアの可能性

小売企業にとって、リテールメディアは、利益率が高い新しい収益源であること、本業である小売事業のさらなる成長のためのキードライバーになるとともに、事業の多様化(事業ポートフォリオ)につながります。

(1)利益率が高い新しい収益源
Walmartの営業利益率は約4-5%と一般的な食品を扱う小売事業の営業利益率と同じ水準かやや高い水準ですが、私はWalmartの「リテールメディアの利益率」は粗利で60%を超えていると推測しています。小売事業と比べると相当高い利益率を誇ります。https://s201.q4cdn.com/262069030/files/doc_financials/2022/ar/WMT-FY2022-Annual-Report.pdf

リテールメディアには、広告配信システムやレポートシステム、顧客の購買データとオンラインのIDを連携するシステムなど、さまざまな仕組みが必要です。
Walmartはこれらの多くを内製化しているため高い利益率を誇りますが、これは規模の大きいWalmartだからこそ実現できています。規模が小さい段階では、内製化の投資費用対効果が合いません。この段階では、システム費用や販売手数料を支払ってでも仕組みを提供してくれるパートナーと組んでリテールメディアに取り組み、まず規模を拡大させることが成功につながります。

(2)小売事業のさらなる成長ドライバー
顧客接点の強化により「より良い接客」を実現
従来、小売企業の顧客との接点は店頭に限られてきました。また、特にスーパーマーケットでは、ほぼ接客をしないからこそ商品価格に人件費を必要以上に転嫁することなく、販売価格を抑えられています。セルフで買う仕組みだからこそ、顧客は商品を安く買えます。一方で、「売場に商品が置いてあるだけ」になりがちで、「商品の価値は売場では伝わりづらい」という課題が長らくありました。

しかしながら、リテールメディアを活用することで、これまで店頭で実現できなかった「より良い接客」が可能になります。
人ではできない品質の接客をデジタルで実施することで、顧客満足度に直結します。それが、買上率、来店頻度、買上点数の向上、そして結果的に売上の拡大に結びつきます。

<リテールメディアで実現可能な接客の一例>

  • 顧客の購入履歴をふまえて、おすすめ商品を提案(この商品が好きな人はこれも好き)

  • 顧客のロイヤリティランクによって販売価格を変更(利益を確保しつつ常連顧客にはお買い得に商品を提供)

  • 顧客が欲しい商品の販売価格が「お買い得」になれば通知を送付

  • 顧客や家族のアレルギー情報を踏まえて提案商品から除外

  • 顧客の過去の行動により検索体験を最適化

  • 顧客の購入履歴に合わせてレシピを提案

  • 生産者が提案するおいしい食べ方など顧客にとって有益な情報を送付

  • 通常販売していない特別商品の予約/取り寄せ販売

  • アンケートやレビューなどで商品の開発者に要望を届ける

お買い物をより便利に、より楽しくできる場として、リテールメディアには大きな可能性があります。

(3)事業の多様化(事業ポートフォリオ)
小売企業における小売事業とリテールメディアの関係性は、Amazonにおける小売事業とAWS事業に似ていると考えています。
Amazonは長らく利益を出さず、莫大な投資を続けてきました。小売企業の競合他社と差別化を図るための継続的な投資であり、現状、他の追随を許していません。その投資の源泉はAWS事業であることは明らかです。AWS事業の利益があるからこそ、小売事業では投資をし続けることができ、新世代の小売企業であるAmazonの企業戦略として極めてまっとうな作戦でした。

私は、米国の大手小売企業は、AmazonのAWS事業と同様の位置づけでリテールメディアに取り組もうとしているのではないかと考えています。
米国では、AmazonがAWS事業に続く第三の柱としてリテールメディアの事業収益が拡大しています。2021年のAmazonの売上高のうち広告事業は310億ドル(4.3兆円)であり、AWS事業の611億ドル(8.5兆円)に追いついてきています。また、Walmart、TargetそしてKrogerも、まだAmazonほどの規模ではありませんがリテールメディアに取り組んでいます。

小売企業にとっては、第二の柱であるリテールメディアが収益の柱になると、戦い方が大きく変わってきます。
小売事業ではより積極的な価格戦略を取ることができるため、より多くの顧客を獲得できます。その戦い方がとれると、小売事業の競合優位性はさらに強くなります。一方、リテールメディアをもたない小売企業は、小売事業で利益を出すしかなく、一定以上に価格を下げるという手段がとれないですし、大きな投資もしづらいでしょう。そのため、リテールメディアを持つ小売企業に顧客を奪われてしまうという未来が待っています。これから先も小売事業で勝ち続けるためには、小売事業ではないところで、いかに収益を出すかが重要になってくるのです。

3:メーカーにとってのリテールメディアの可能性

(1)顧客データを活かした販促/マーケティング
リテールメディアは、(各データを活用できるリテールメディアの場合)小売企業の会員情報や購買データ(ID-POS)を活用した販促を実施できることが大きな特徴です。小売企業の店頭において特定商品の購入済み/未購入の顧客に対して、それぞれ適した販促を実施できるのはリテールメディアだからこそです。

また、顧客のオンラインでの行動データを収集/分析できることから、これまでわからなかった情報も手に入れられます。例えば、購入段階(購入済み/未購入)だけではなく、前段階(たとえば、デジタルチラシを閲覧した/しない)も把握できるため、デジタルチラシの閲覧から購入につながった数や率もわかります。

さらに、リテールメディアは、顧客に対してアンケートを取り購買データ(購入済み/未購入)とかけ合わせることもできるため、「特定商品の購入済み顧客と未購入顧客が、それぞれその商品をどのように捉えているのか」についてを把握したり、特定商品のヘビーユーザーとライトユーザーでデータを分解することも可能です。

もちろん、オンライン広告と同様に広告クリエイティブのA/Bテストも実施できるため、広告クリエイティブと小売企業の店頭での販売数の相関を追えます。

このように小売企業の会員情報や購買データ(ID-POS)を活用できるリテールメディアは、メーカーの販促/マーケティングに大きな可能性をもたらします。

(2)メーカーと小売企業の共同販促/マーケティングの場
小売企業の店頭でメーカーの販促/マーケティングの機会が減っている現状において、リテールメディアは解決策の1つです。

GoogleやAWSなどのインフラ、データ分析など小売企業向けの各種ITサービス進化や価格の低下により、小売企業は顧客のオンラインでの行動データや小売企業の会員情報、購買データ(ID-POS)などを統合し管理しやすくなりました。売り場を持たないメーカーにとっては、リテールメディアを活用すれば顧客の顔が見えるため、単にお付き合いで広告を出稿するのではなく、本質的な小売企業との共同販促/マーケティングに取り組みやすくなります。

(3)商品単位から顧客単位への目線の変化
リテールメディアは、販促/マーケティング施策の効果検証を顧客単位で実施できるため、小売企業とメーカー双方の目線が「商品単位」から「顧客目線」に変化します。

「商品」単位での売上分析

  • 売上 = 商品販売個数 × 商品価格

    • 少数の優良顧客が多く買っているのか、多くの顧客が少しずつ買っているのかが不明

「顧客」単位での売上分析

  • 売上 = 顧客数 × 1人1回当り購入個数 × 購入頻度 × 商品価格

    • 顧客数や購入頻度、購入個数の多寡を把握できるため、施策の改善に活かせる

(4)データを活用した体系的なアプローチが可能に
リテールメディアから得られたデータを活かすことで、営業部門などでこれまで属人的に育まれていた個人の知識や経験にもとづく「暗黙知」を、組織としての「形式知」に昇華させることができ、成功する販促/マーケティング施策の再現性が向上します。

もちろんデータだけがすべてではありません。データ分析で得られた情報を活かして施策を実施する場合には、優秀な個人が持つ勘や経験、そして直感が重要であることは間違いありませんが、それを一個人ではなく組織として体系的なアプローチを展開できることが重要です。

第五章:リテールメディア普及に向けたポイントと私たちの挑戦

1:リテールメディアに適した「コンテンツ」

小売企業がWEBサイトなどで提供しているコンテンツは、大きくわけて「チラシ」と「レシピ」でした。逆にいえば、これ以外のコンテンツを提供してきていないと言っても過言ではないでしょう。

レシピは、小売企業からの提供ではコストがかかることや、小売企業間でのコンテンツの差別化が難しいことから、レシピサイトと連携してコンテンツ提供をしてきた経緯もあります。

レシピは、スーパーマーケットにおけるコンテンツとして非常に有益です。調味料の新しい活用法を知ることができれば「それに使えるなら買ってみよう」という気持ちになりますし、さまざまな活用方法を知れば「食卓登場頻度」が高くなります。「食卓登場頻度」が増えると消費回数が増え、結果として売上(購買回数)が増えるという良質なサイクルを生むコンテンツだと考えています。しかし、レシピは「利用シーンを知る」ためのツールであり、商品そのものの価値や特徴、こだわりを伝えるものではありません。それらを伝えるためには、レシピではない方法も必要だと考えています。私たちは、そこにチャレンジをしています。“商品の良さを知ってもらう”という視点すらも一部だと思いますし、その他にもさまざまなアプローチがあると思います。

2:リテールメディアにおける「クリエイティブ」の重要性

リテールメディアの質をより高めるためには、「クリエイティブ」が重要です。
ここでいう「クリエイティブ」は単なるデザインの意味ではありません。「お買い物」という顧客体験の中に「広告」をどのように組み込むのかが肝になります。

例えば、Walmartのオンラインストア「Walmart.com」をご覧ください。
コーラを検索すると画面上部にペプシの広告枠(赤枠箇所)が表示されます。広告枠に掲載されている商品にも「+Add」ボタンが付いており、これをクリックするとカートに追加されます。
この「+Add」ボタンもリテールメディアにおけるクリエイティブの1つだと考えています。

Walmart.com https://www.walmart.com/search?q=cola

リテールメディアのクリエイティブを向上させるためには、小売業界に詳しい人だけではなく、メディア事業や広告事業に詳しい人も含めてチームを組んで取り組むことが重要です。
リテールメディアについて議論したい人、また仕事として取り組みたい人、ぜひカジュアルにお話をしましょう!
望月Twitterアカウント:https://twitter.com/mczkhrs

私たちが挑戦しているリテールメディアの「クリエイティブ」を紹介させてください。

CVR(購買率)が平均約1,000%向上するクリエイティブ
私たちはリテールメディアで「編集タイアップ型」のクリエイティブを展開しています。
メーカーで商品開発に携わっている方たちは顧客や商品に対する愛に溢れており、「そこまでこだわるのか!」と驚いてしまうほど商品の工夫をしています。
しかしながら、その商品の工夫や愛の深さは小売企業の店頭では顧客に伝わり切れていません。。。

それ、すごくもったいなくないですか!?

そこで私たちはリテールメディアを通じて顧客に商品を作った人/チームの”愛”をお届けするために、徹底的に取材して記事としてお届けしています。

その結果、CVR(購買率)が平均約1,000%向上しました!CTR(クリック率)ではなく、CVRです。ちなみに、特売をしているわけではなく、純粋にその商品の良さをお伝えしているだけなのですが、それでもこれだけ売れました。

リテールメディアではメーカーに広告を出稿いただくため、より多くの商品を販売するための仕組みを考えていく必要がありますが、私たちは今後も商品と顧客にしっかりと向き合い、リテールメディアで愛を語ることに真剣に取り組んでいきますので、さまざまなメーカーさまとご一緒したいと考えています。ぜひご連絡ください。

私たちとテストマーケティングを実施してくださった日清オイリオさんの取材記事(※有料会員限定記事)がありますので、ぜひご覧ください。


3:リテールメディアネットワークの必要性

米国におけるリテールメディアは大手小売企業であるAmazon、Walmart、Target、Krogerが高いシェアを誇っており、メーカーは大手小売企業のリテールメディアのみに広告出稿するだけでことたりるとも言えます。
一方、日本の小売業界は米国ほど大手小売企業が寡占していないこともあり、1社1社のリテールメディアのトラフィックは少ない状況です。そのため小売企業はリテールメディアの広告収益が上がりにくく、広告営業の専任者をおくことが難しく、またメーカーもトラフィックが少ないリテールメディアには手間をかけて広告出稿することはありません。

そこで必要になるのが「リテールメディアネットワーク」(小売企業が保有するリテールメディアの広告枠を束ねて広告主に提供するための仕組み)です。
リテールメディアネットワークは、オンライン広告におけるアドネットワーク(複数のメディアを集めて広告配信ネットワークを形成し、それぞれのメディアに一括で広告出稿できる仕組み)のように、リテールメディアを束ねる仕組みです。メーカーは広告出稿しやすくなり、小売企業はトラフィックが少なくて売れないという問題が解決するとともに、自社でリソースやアセットを持っていなくても、広告収益を獲得しやすくなります。

私たちも日本の小売業界でリテールメディアの普及を促進するために、「リテールメディアネットワーク」を展開しています。はじめたばかりということもあり、まだまだメディアの数も広告の配信量も少ない段階ですが、小売企業とメーカーの間をつなぐ役割を担っていこうと考えていますので、ぜひお気軽にご連絡ください。

(1)小売企業にとってのリテールメディアネットワーク
小売企業は、リテールメディアに取り組むにあたり、自社のみで取り組むのか、また「リテールメディアネットワーク」を活用するのか、の判断に悩まれると思います。

自社のみでリテールメディアに取り組み広告収益を得られる場合は、広告収益の利益率は高まりますが、広告事業担当の人件費(営業/広告レポーティング)、広告配信システムの導入/運用費用などさまざまなコストが必要になるため、広告収益が一定の規模を超えないと、損益分岐点に達しません。
また、自社に「リテールメディアの専門家」がいると判断はしやすいのですが、そもそもまだリテールメディアの専門家が少ないこと、また小売業界の業界構造を考慮すると採用難易度が高いことを考えると、現実的ではありません。

そこで、私は最初は「リテールメディアネットワーク」を活用する方法が良いかと考えています。まずリテールメディアネットワークを提供するパートナーと組み、超高速でノウハウや経験を溜める。貯めたノウハウや経験を踏まえて、継続もしくは自立を判断するのが良いのではないでしょうか。

(2)メーカーにとってのリテールメディアネットワーク
メーカーにも「リテールメディアネットワーク」を活用するメリットがあります。
小売企業が企業単位で展開している「リテールメディア」と比べてトラフィックボリュームが出ることは言わずもがなですが、リテールメディアネットワークを活用することで、小売企業単独ではわからない指標がわかるなど、メーカーにとっても新しいメディアであるリテールメディアのノウハウを貯められ人材の育成にもつながります。

また、メーカーにとっての組織的な課題(営業部門と宣伝部門の分断)の解決にもつながります。「小売企業が単独で展開する「リテールメディア」は営業部門が担当する」という認識は根付いており、この役割を今すぐ変えることはハードルが高いと感じています。小売企業のリテールメディアを束ねた「リテールメディアネットワーク」は、営業部門と宣伝部門双方が連携して対応できる可能性があると考えています。逆にいえば、この組織的な課題を変えられたメーカーが「リテールメディアへの取り組みの成功企業」になるのではないでしょうか。

4:リテールメディア立ち上げ/運営の負荷軽減のための仕組み

顧客の実店舗でのお買い物体験をもっと楽しく便利にしていくための仕組みの1つがリテールメディアです。

私たちは、小売企業がリテールメディアを立ち上げたくなったら、大きな投資もなく、すぐに立ち上げることができる世界を目指しています。
リテールメディア立ち上げ/運営の負荷軽減のための仕組みとして、独自開発した「パーツ/部品」を小売企業に提供しています。クーポン、ポイントカード連携、顧客ごとに販売価格を変更できる「ダイナミックプライシング」、CMS(コンテンツ管理システム)による手間の少ないコンテンツ配信、共通商品マスタの整備など「お買い物を便利にするパーツ/部品」を作ることで、小売企業のリテールメディアの立ち上げ/運営の負荷軽減を目指しています。

私たちは、これからも小売企業が「専門知識が不要」「専門人材が不要」「低い投資リスク」でリテールメディアに取り組めるよう、立ち上げ/運営の負荷が軽減できる仕組みを開発/提供していきます。

5:お買い物体験に役立つリテールメディアへ

リテールメディアにおいては、ユーザーの利便性や、「顧客のお買い物体験をいかに向上できるのか」に向き合うことが重要です。

その視点をなくし、例えばリテールメディアを広告だらけにすると、顧客は広告を求めているわけではないためリテールメディアから離れます。結果的に小売企業は収益を得られず、メーカーは顧客にアプローチする母数を失うことになります。

顧客の期待に応えられるようスーパーマーケットのWEBサイトやアプリで顧客のお買い物体験に役立つ情報を「リテールメディア」として提供する必要があります。しかしながら、日本の小売企業、特にスーパーマーケットのWEBサイトやアプリでは、店舗情報やキャンペーン情報、チラシ(単に紙のチラシを画像等で掲載することが多い)など、ただ情報を掲載しているだけの場であることが多いのが現状です。

米国の動向からもわかるように、今後は日本においてもスーパーマーケットのWEBサイトやアプリで食料品を買えるようになると考えています。
小売企業のWEBサイトやアプリにネットスーパー機能がある場合、顧客は自宅やオフィスで商品を購入し、自宅や店頭で受け取れます。メーカーはリテールメディアに広告を出稿すれば、店頭と異なりその場で購入まで完了するため、売上に直結しやすくなります。小売企業はメーカーの広告出稿が増えることにより、リテールメディアの広告収益が拡大します。

私たちは、まず顧客を中心におき、「顧客のお買い物体験をいかに向上できるのか」に向き合い続けています。今後も、顧客が求める機能/サービスを小売企業が実現できるようさまざまな仕組みを提供していきます。

さいごに

リテールメディアは、今後日本においてもさらに盛りあがり、普及拡大することは間違いありません。
しかしながら、簡単には解決できない難しい課題があることも事実です。ただ、リテールメディアに限らず新しいマーケットでは当然のことで、ひとつひとつ解決していけば良いと考えています。

私たちは、リテールメディアのマーケットを拡大して、より多くの顧客に日本中の素敵な商品をお届けしたいと考えています。リテールメディアを盛り上げていこうぜ!課題を解決しようぜ!という仲間はつねに募集していますので、ぜひお声がけください。

素敵なリテールメディアを一緒に作っていきましょう!
望月Twitterアカウント:https://twitter.com/mczkhrs(お気軽にご連絡ください!)


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