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「徹底的な生活者目線」という価値、雑誌「LDK」がリテールメディアに挑むワケ

みんなのリテールDXは、リテールメディアを「広告のあり方を変える新しい存在」と位置付け、スーパーマーケットをはじめとした小売企業、飲料や食品メーカーなどにインタビューしてきました。では、一般的に言う「メディア」の立ち位置にいる企業は、この新しい存在についてどのように考えているのでしょうか?

今回、新たにD&Sソリューションズとともに生活者と商品の新たな出会いの場を提供することに協力していただいた出版社「株式会社晋遊舎(以下、晋遊舎)」で女性雑誌「LDK」に携わる取締役 セールス&マーケティング局長 編集局次長の木村 大介氏と同 マーケティング事業部長の西尾 記代子氏に、リテールメディアの可能性について語っていただきました。

出版社から始まった、コンテンツの提供

「良いも悪いも本音で評価する、テストする女性誌」と題する「LDK」は、出版不況やデジタル化が叫ばれるさなか、雑誌として一般的な記事広告等の出稿を受け付けず、純粋な雑誌購読だけで読者を獲得してきた、出版開始から10年を迎えた人気雑誌です。現在は、Webサイト「360LiFE」が月間700万UU、公式LINEフォロワーも120万人を超えるなど、デジタル領域においてもその存在感を高めています。

提供:株式会社晋遊舎

リテールメディアにおいてコンテンツが必要不可欠なことは皆さんもご認識の通りかと思いますが、だからD&Sソリューションズが晋遊舎に話を持ちかけてLDKのコンテンツを利用させてほしいと依頼した……と思いきや?、実はそうではありませんでした。

「経済紙にRETAILSTUDIOの記事が載っていて、私が問い合わせたんです(笑)。LDKでは、消費者目線でテストをした結果、心からおすすめできる商品に『ベストバイ』という認証マークを付与し、メーカーさんの販促にご活用いただいています。また、小売店さんともタッグを組んで化粧品を中心とした売場づくりを行なっていますが『商品の売上に直結する』ととても好評でした。スーパーさんでも同様の取り組みを進めたいなと思っていたんですが、直接のアプローチが取りにくい業界でもある。そこでD&Sソリューションズさんに目をつけたんです」(西尾さん)

西尾さんから、D&Sソリューションズの名前を聞いたとき、木村さんは「正直『なにそれ?』と思った(笑)」と話します。ただ、同社が総合食品商社の子会社として小売DXを推進している点や、スーパーを10社以上束ねているプラットフォームであるという点が、強く背中を押されたと話します。

「アメリカではリテールメディアが進んでいる認識はありました。小売企業がメディアを持って、情報を発信しつつ、収集したデータを販促・マーケに活かすことが当たり前になる中で、自分たちが出来ることは何だろうと考えている中でちょうど出会えたんです」(木村さん)

株式会社晋遊舎 取締役 セールス&マーケティング局長 編集局次長の木村 大介氏

"確かな目"は消費者目線によって生まれた

そもそも、LDKが提供する価値は「良いも悪いも本音で評価する」という、徹底的な消費者目線です。兄弟誌「MONOQLO」の読者アンケートで主婦層の購読が多かったことから11年前の2012年に不定期刊行を開始。「本当にキレイになる洗剤は?」「時間がないときにぱっと作れる美味しいレトルトって?」といった主婦の悩みを、多数の専門家の意見はもちろん、社内のテスト機関「LAB.360」による科学的検証もあわせて、多角的に切ることで「確かな目」としての地位を確立してきました。

「世の中の一般的な雑誌って10年も経てばコンセプトや方向性が変化することも珍しくないんです。何故なら、広告やタイアップを重視する媒体の場合、スポンサーのタイプやトレンドによって、編集ページの内容も少なからず左右されるから。もちろん、そういったやり方は世相を反映させる一環として否定はしないですけど、我々はあくまで『広告一切なし』をコンセプトに、メーカーがどうとか考えず、読者をとにかく第一に考えます。テストの厳しさを変えることもなく、雑誌の根っこの部分が変わらないので、ここまでやってこられたのかなと」(木村さん)

商品のテストは、当初こそ他社の研究機関と連携して実施していたものの、LDKやMONOQLOの評判が高まるにつれ検証品質の安定化や定期的な検証が必要になったことからテスト機関「LAB.360」を社内で立ち上げ、各雑誌の検証に活かしているそうです。自前の検証機関の設置は「広告を取らないし、検証には時間がかかるし、かなりの高コスト」(木村さん)と話しながらも「今の時代、Webには"薄い情報"が広まる中で、同じような情報だけでは影響力を持つことは出来ない。自分たちが検証することでコンテンツのオリジナリティが高まるし、リテールメディアへのコンテンツ提供を含めて、マルチユースに繋げることが出来る点で、独自の価値を出せているのではないか」(木村さん)

提供:株式会社晋遊舎

実際、LDKにおける商品比較への情熱は並々ならぬものです。

「食品、飲料はもちろんのこと、洗濯洗剤、シャンプー、フライパンまで、売り場に行くと売り文句はだいたい同じようなものだと思うんです。消費者ニーズが大きく変わらないから最大公約数で似た言葉が並ぶけれど、消費者からしたら何を選べばいいかわからない。だから選択の決め手が「CMで見た」になってしまう。かと言って、それ以外の選択理由も『安いから』『特売だから』みたいな話が多く、果たしてそれで良いのかな?と。

私たちは洗剤で言えば消臭力や洗浄力を専門家の協力や専用の機器でテストして客観的な数値を出して比較しますし、食品なら料理研究家やモニター、編集部員などが集まって食べ比べをするだけでなく、使う際にストレスのないパッケージとなっているかなど、潜在的な良し悪しまで比較項目を用意、評価しています。

面白い例で言えば、LDKの巻末特集ではいつも「40製品テスト」といった形で焼肉のタレや緑茶など、多品種が存在する商品ジャンルの徹底的な横並びを実施しているんです。何軒ものスーパーへ足を運んで、メジャーな商品やスーパーのPB商品、大手ECの人気上位品などから絞りに絞って40商品前後。焼肉のタレであれば、「飽きが来ない味」「野菜炒めにもちょうどいい」といった味だけでなく汎用性も横並びでレビューしているので、『今まで手が出せていなかったけど、記事を見てリピってます』みたいな声をいただくんです」(西尾さん)

ほかにも、シーフードミックスであれば中身をすべて取り出して「商品Aは小エビ含有率が高い」「商品Bはイカ含有率が高い」「商品Cはコスパは良いけど一つひとつが小粒で豪華感に欠ける」といった検証もしているそう。物々しい、杓子定規な定量評価だけでなく、面白く楽しめるコンテンツ作りもしているからこそ、LDKは10年以上読者に愛される雑誌として生き残っているのかもしれません。

株式会社晋遊舎 マーケティング事業部長の西尾 記代子氏

日本のリテールメディアの礎となるために

LDKが持つ、徹底的な消費者目線のコンテンツをリテールメディア上で配信する価値について、木村さんは「日本のリテールメディアの在り方の礎になれたら」と語ります。アメリカのリテールメディアの動向を認識していた木村さんは、「データ化だけの目線では、消費者側に喜んで使ってもらえない。特に日本は"アナログ感"も大切にする人が多いし、わたしたちのコンテンツで厚みを持たせられたら」と話します。

D&Sソリューションズとしても「スーパー側から前向きな反応をもらっているので、ぜひ取り組みを広げたい」と話します。「販促部門の人たちと会話しているので、『お客さんにいい情報を届けて、商品を手にとってほしい』という意識が強いんです。実際に記事を読んで『この商品はどこにあるの?』といったお客様の声もあったようで、『自分たちも勉強になるから、読めて楽しい』という話ももらった」

今後、配信していくコンテンツの方向性については、「読者層からするとスーパーは『日常的』に行く場だけど、本当は『知らなかった商品に出会える楽しい場所』になりえるはず。そのサポートになるコンテンツを提供したい」と木村さん。レシピは他社が配信しているため、例えば「食品の保存方法」といったライフハックコンテンツも選択肢になりうるとインタビューの場で企画も飛び出しました。食材の長持ちの方法が分かれば、足が早いと思って敬遠していたものも、手に取る消費者が増えるかもしれません。

最後に西尾さんと木村さんは、LDKが果たしてきたメディアとしての役割と、リテールメディアで果たせる役割について語ってくれました。

「スーパーで売られている商品の中には、真面目に商品づくりをしているのに、広告・宣伝費がないために日の目を見ない商品もあるのですが、ある日LDKのテストによって一気に売上が伸びて『お陰様で大手企業にも対抗できるようになりました』という声をもらったこともあります。広告などのしがらみがなく、10年間読者だけに向き合い続けてきた信頼性が、リテールメディアでも活かせるようになれば嬉しい」(西尾さん)

「商品選びのモノサシが『知名度』や『価格』だけだとつまらなくないですか?私たちの雑誌、メディアはその評価軸ではない価値の提供ができているんだと思っています。リテールメディアが広がることは確実な流れですし、そこに我々のコンテンツが求められるのであれば、消費者の新たな商品との出会いを作ることが出来るはず。『LDKが言ってるから選んでみよう』という信頼感を背景に、日本のマーケットに合ったリテールメディアのスタンダードに寄与できるよう、今後も進めていきたいですね」(木村さん)


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この記事を書いたのは・・・
ヒロシ
仕事で対面の機会が増えてきたのに、湘南へ引っ越したアラフォー一歩手前の映画好き。現金決済が苦手で、現金オンリーの店は避けるタイプ。