“広告”ではなく“メディア”としてお客さまに価値を提供しませんか? - リテールメディアの現在地【前編】
こんにちは。みんなのリテールDX編集部のヒロシです。
米国で発展の気配を見せているリテールメディア。店舗デジタル化の波が米国から日本へとやってきたように、今後日本でも注目が集まると予測されています。ただ、ワードとして「リテールメディア」という存在は知っていても、その価値についてはわかりにくいですよね?
本記事では、スーパーマーケットの購買データを活用できる広告配信サービス 「RETAILSTUDIO AD」に技術を提供してくださった株式会社インティメート・マージャーの代表取締役社長 簗島 亮次さんをゲストに迎えて、広告として消費されている2023年のリテールメディアの現在地と、“メディア”として昇華すべき“未来”について、前後編の2回で語ります。
キャンペーンとして消費されるリテールメディア
望月:
RETAILSTUDIO ADについて、一緒にサービス提供までこぎつけることができました。まずはありがとうございました。現在、小売事業者においては一気通貫でお客さまにIDを通じてアプローチできるリテールメディアが流行ってきていると思います。業界の関心が高く、大手メディアでも特集が組まれましたし、海外でもウォルマートが「Walmart Connect」を立ち上げて広告プラットフォーム事業へと乗り出すなど、購買プロセスにおける販促と広告の距離がグッと近づいています。簗島さんは、日本のリテールメディアの現状をどう捉えていらっしゃいますか?
簗島:
広く色んな方と話していても、リテールメディアは伸びていますし、リテールメディアを活用した広告もここ1年半、2年くらいでグッと増えました。ただ、中身を精査すると日本は海外の状況とは異なり、YouTubeを活用した動画配信がメイン。また、継続的に取り組みを広げていこうという本腰を入れている企業はまだまだこれからで、「流行っているから使ってみよう」という様子見の企業も少なくないでしょう。
「とりあえず1回お試しで」と手を出しやすいYoTubeを使ってみている状況で、試行錯誤のフェーズまで進んでいないのが実情かなと。
望月:
YouTubeに広告を配信する時って、クリエイティブはYouTube側の仕様に依存するじゃないですか。外部ネットワーク配信だから普通の広告と仕様は同じなので、本当の意味でのリテールメディアの使い方にはなっていないし、広告を見たあとの態度変容などの効果はこれまでの広告と変わらないんじゃないかと。
簗島:
そうですね。現状はテレビCMをそのままYouTubeに乗せているコンテンツが多く、それを見た他の企業が「他社もやってるから」と手を出す感じ。
望月:
顧客獲得を継続的にベンチマークしていくパフォーマンスメディアというよりも、キャンペーン的な使い方ですかね?
簗島:
はい。キャンペーンとして使われていますし、海外も同じように使われているのかまではわかりませんが、いわゆる小売企業の棚取りのために使われているケースも多いですね。
望月:
ROIをしっかりはじき出すというよりも、営業ツールとして活用していくイメージですね。テレビでGRPこれだけ出しました、といった。
簗島:
そうそう。比較的ドラッグストアではリテールメディアが進んでいるんですけど、大手ドラッグストアとメーカーの取り組みの多くは、アドネットワークを“お土産”のレベルで使っていますよね。アプリ内広告も出るみたいですが、アプリ内PVが少ないから「とりあえずお付けしますね」という感じのお土産になっている印象。
中心はやっぱりマス広告なもんだから、お土産として新しいとこに出しませんか?という使い方が多いので、リテールメディア単体で「しっかり効果測定しながらPDCAを回して成果を上げていこう」なんて会社が少ないのは理解できますよね。
購買を追えるから、購買だけを見てしまう企業・担当者
望月:
今の話を聞くと、外部メディアに広告配信するだけだと効果に言及されないっていう感じじゃないですか。一方で僕らの「RETAILSTUDIO AD」を提供し始める前は基本的にアプリ内広告で完結することが多いので、むしろ「それで何個売れたんだ?」みたいな成功報酬よりも厳しい縛りがあったりしますよね(笑)
簗島:
結局オンライン広告は、そっちに行かないとあまり売れないんだと思いますけどね。インターネットには、さまざまなメディアが勃興して終焉してという歴史を繰り返している。その中で継続して生き長らえているメディアって、結局のところ「売上がどれだけ上がるのか」「どれだけ低コストで運用できるのか」といった比較で残ってきた事になる。流行りの媒体からレギュラーとして生き残ってきた変遷を捉えると「効果が出る」という結果がすべてなので、何が“効果”なのかはともかく、それを捉える必要性は皆さん感じているはずです。
望月:
“効果”の話で言うと、リテールメディアでいわゆる外部広告配信ができるようになったことで、購買まで追えるようになりましたよね。その辺りの効果が見える化されたことはメリットがある一方で、「効果がないんじゃないか?」というようにも見えてくる。
本来の広告って、認知、理解というプロセスも包含しているのに、購買まで見えるようになると、そこにしか目が行かないデメリットもありますよね。その辺り、外部ネットワークを活用した広告のあり方ってどう解釈すればいいんですかね?
簗島:
そうですよね。インターネット広告あるあるですけど、CV(※)は見えやすいからCVしか追わなくなる。
望月:
でも、バナーを見ただけで購入に至ることはなかなかハードルが高いですよね(笑)
簗島:
消費者として体験しているはずなのに、仕事になるとみんなCVしか見なくなるという(笑)
結局、認知による“きっかけ”は作れるけど、来店動機に繋がる行動を起こすことって難しいですよね。最終的に購買まで見えることは良いことではあるんだけど…。それこそ今の望月さんの話で言えば、購買しか追わなくなって、結果として広告予算を絞っちゃう会社は、正直それでも良いのでは?と思います。よくあるのが、Google Analyticsを導入するとクリックのCVしか見ない。ほとんどがGoogle広告から流入してるから、最後はSEOじゃん!みたいになる(笑)
望月:
間接効果を見ないから何もアシストできなくなって、最終的にあれ?みたいな?
簗島:
そうそう。大体が結果として全体のCVって下がっていくんですよね。
おそらく、購買まで見て数字をちゃんと追って行くと「購買に意味はないじゃん 」という結論に一旦たどり着いた企業担当者は「あれ?どんどん売上が減ってくぞ?」ってことに、ちゃんと気付いてくれるはず。
望月:
ああ、確かに最終的にそこに行き着きますよね。
簗島:
やはりここは、それに気づける場所を提供することがとても重要なんじゃないかと思っています。なんとなくドカーンとキャンペーンを打ってみたら、ドカーンと成果が上がった。だけど購買まで追ってみると、その「ドカーン」が意外と大したことがなかった。
その実情がわかったから、“創意工夫”や“試行錯誤”した結果、CVという購買の直接的な結果が見えるもんだから「直接的な効果だけ追っていこう」という道をたどるかもしれない。
でも、人の購買行動って「育成されて、モノを買っていく」という前提もあるわけで、そのパス(経路)がなくなったら売り上げが下がってしまうという企業を色々見てきました。そこまで行き着いたら、やっぱり「あれ?これって実は、意外にドカーンと花火を打ち上げたらこういう成果が出るんだ」となる。そういうインサイトに気づける場が提供できるのであれば、データを使って賢くマーケティングできる小売企業も今後増えてくるんじゃないかなと思います。
「見えないから工夫ができない」会社が「見えたから工夫して改善していく」ように変わっていく姿を見ると、私達からしてもとても嬉しいです。一瞬「効果が出ないじゃん...」と見えてしまう辛い時期を過ごす皆さんは大変だと思うんですが。
ただ一つ言えることは、小売企業やメーカーが儲からないと私達も対価をお支払いいただけないので(笑)、その企業の皆さんがちゃんと儲かるために、一緒に辛い時期を超えていく姿勢は続けていきたいですね。
望月:
そういう意味だと、外部ネットワーク広告って本当の購買までは追えなかったじゃないですか。それを追えるという、見える化の価値は大きいですよね。
簗島:
そうそう。それも価値ですし、何より工夫してそれを越えようとする会社が出てくる。工夫ができることがとても重要だと思うんです。
望月:
簗島さんは、そういう意味で昔から効果にコミットしてますよね?
簗島:
導入企業の売上が上がらないとサービスを利用していただけなくなってしまうので、「見える化しました」で終わるのではなく、データを使ってターゲティングができる状態まで落とし込みます。「見込み顧客にターゲティングしましょう」まで行き着いてこそ、やっと工夫ができる。
それこそターゲティング広告って、見込み顧客に広告を打つといい数字が出てくるじゃないですか。でも、その見込み顧客をそもそもどう作っていくの?どう広告を打つの?CVは?最終的な売上は?...と、効果を出していく工程を踏んでいくので、インティメート・マージャーでは、その効果を出せる場を提供して、改善・改良に導く伴走をしてきました。今回の「RETAILSTUDIO AD」でも同じようなチャレンジを進めるつもりです。
お客さんはセグメントではなくビヘイビア
望月:
僕らは、サイト内・アプリ内広告を小売業界の皆さまに対して推進してきましたが、最終的なお客さんはそこだけにいるわけじゃないですよね。
簗島:
世の中にいっぱいいますもんね(笑)
望月:
もちろん、四六時中アプリしか見ていないという人は基本存在しないですし、それこそ買い物の直前しか見ない。
簗島:
今はそうですよね。
望月:
だからそういう意味だと、どういうタイミングで「ユーザーのふとした瞬間に思い出してもらえるか」というのが大事。となると、一気通貫でサイトやアプリの外で接触できるっていうのは結構な価値なんじゃないかと思っていて。
例えば、大きな広告プラットフォームでユーザー数が多すぎるから、配信グループでセグメントしないと、とんでもない広告コストがかかってしまう。興味のない人にも結構送ってしまったりして。
購買データを利用すれば、例えば「コーヒーを買っている」という事実のもとに、セグメントではなく、しっかり直接のアプローチが可能になる。そういうユーザーに対して少なくともサイト・アプリ上でアプローチできたり、あとはそこから外に拡張して、配信するという仕組みが今回の話ですし、ネットの世界では当たり前でも「リテールの世界」ではあまりやってこられなかった。そこに役立つ仕組みになっていくんじゃないかなと思っています。
簗島:
大手SNSとかだと、「20代、30代男性」みたいな「コーヒーを買いがちだよね」という世代に広告を打ちがちだけど、コーヒーを買うという事象一つをとってみても、20代男性と30代男性でも大きな乖離があるし、昔は結構雑に広告を出稿していた時代があった。
例えば、 20代男性に対してメーカーがコーヒーの広告を出した時に、クリック率が高い、低いの理由を掘り下げると「ターゲティングが誤っていた」「クリエイティブが悪い」みたいな議論になっていました。でも、購買データに紐づくターゲティングという高い精度の情報が出てくれば「コーヒーに興味ある人たち」で括ることができる。だからこそ、クリエイティブの最適化や、広告の効率化を進められるんですよね。狙いたい人たちの定義を突き詰められる今って、とても良い環境だと思うんですよ。
望月:
広告のターゲティングで悩ましい問題って、デモグラフィックでの「F1・F2・F3(※)」のようなセグメント。年齢を一歳重ねるだけで異なるセグメントに行く。それってどうなの?と思うんですよね(笑)
簗島:
そうですよね(笑)
望月:
そんなにパキッと人って変わらない。グラデーションで徐々に傾向が変わっていくわけで、どちらかというと、「デモグラでセグメントする」というよりは「購買ビヘイビア」「嗜好性」の方が購買プロセスの捉え方として行き着くんじゃないかと思うんです。
そういう意味で、来店データと購買データの扱いの差というのは結構重要だと思っているんです。来店を広告効果とする見方もあるとは思うんですけど、広告を打っても打たなくても来店するんですよ、当然ながら。
だから来店を効果とするのではなく、購買の中身まで見ることが必要で、「広告に接触してフリークエンシーが高いから、間接効果とかアシストの影響がありましたね」という、何がきっかけになったのかを追求することが大切だと思っています。それが本当の意味で「見えるようになる」ということなのかなと。
次回予告
リテールメディアはキャンペーンとして使われ始めた現状から、購買ばかりを追いかけてしまう担当者が成長するまでのプロセス、広告が属性だけで追いかけていた時代から購買データに基づくビヘイビアを捉える時代の解説まで、話が尽きない梁島さんと望月。後半も、リテールメディアにとどまらず、小売業界における広告の課題や媒体のあり方について議論が続きます。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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