意外と知られていない!?チラシの役割ってどんなこと?
連載「デジタルチラシの今と未来」とは?
「デジタルチラシ」の現在地とこれからを考える連載企画です。紙のチラシからこれからのデジタルチラシについてなど、「みんなのリテールDX」視点で考察します。
こんにちは、みんなのリテールDX編集部のユウキです。
デジタルチラシの現在地とこれからを考える連載企画「デジタルチラシ 今と未来」。第1回の今回は、チラシの役割、紙のチラシとデジタルチラシの長所などについて、D&Sソリューションズ株式会社で「チラシNEXT」をはじめとしたプロダクトの企画・開発を担当する堀合洋介さんにお話を伺います。
デジタル思考の高まりによりDXがトレンドワード化する昨今、スーパーマーケットはどのような運営を目指していくのか。チラシから業界のDXを考えます。
堀合 洋介(D&S ソリューションズ株式会社 プロダクト開発グループ)
大手食品スーパーマーケットチェーンにて、ネットスーパーやポイントカードの立ち上げを行い、販売促進や情報システム部署にて部長職を勤める。現在はD&Sソリューションズにて新規プロダクトの企画や開発を担当している。
チラシの役割は集客だけではない
スーパーマーケットと消費者をつなぐ「チラシ」の存在。B4やB3といったサイズの用紙に、直近数日間の特売情報が所狭しと掲載されたその印刷物を、誰もが一度は目にしたことがあるはずです。普段何気なく見ているチラシには集客以外にもさまざまな役割があると、堀合さんは言います。
「ひとつが、スタッフへの業務連絡指示書ですね。チラシはお客様との約束事項なので、記載されている内容については、基本的にすべて実施されなければなりません。そのために店舗がどのような準備をすればいいのか。発注や売場づくりなど、チラシが公開されるまでにやるべきことが盛り込まれています。外向きだけでなく、内向きにも意味を持っているのがスーパーマーケットにとってのチラシですね。」
スーパーマーケット業界には、リベート収入と呼ばれる利益があります。リベート収入とは、売上・仕入に対しての割戻金や、数値目標達成時の報償金のこと。各企業・店舗は、特定の商品の販売を促進することで、メーカー・卸業者などから発注量や売上数量、売上額に応じた還元を得ています。堀合さんによると、チラシには掲載商品の発注・販売を通じてリベート収入を明確化する目的もあるそうです。
「極論で言うと、スーパーマーケットのチラシはお客様の手元に届かなくてもいいんです。ほとんどのお客様は日常生活の一部として店舗を訪れているのであって、掲載商品だけを目当てに来店しているわけではありません。週に2回、ないしは3回のペースでチラシが折り込まれ、毎日何かしらの特売商品があっても、そこからスーパーマーケットが得ている売上は全体の15%ほど。実は、みなさんが想像するような集客の効果は限定的なんです。業務連絡指示書、事業計画書としての意味合いも強いのが、スーパーマーケットのチラシの特徴です。」
スーパーマーケットのチラシの特異性。業界のDXの現在地
ニュースサイトなどの台頭もあり、近年、新聞の購読率は低下傾向にあります。メディアとしての新聞の力が弱まるいま、折込チラシには以前のように、膨大な数の消費者にアプローチする効果を期待できません。
そのような時代にあって業界で議論されているのが、紙のチラシの発行部数を減らすこと。効果が薄くなっているのであれば、予算のいくらかを別の販促に充てようとするのは必然の流れのようにも感じます。しかし、問題はそれほど単純な構造ではないようです。
「スーパーマーケットのチラシには集客のほかにも、業務連絡指示書、事業計画書としての役割があります。そのため、見通しが明るくないからと言って、別の販促へと簡単に移行するわけにはいきません。他の方法で代替しづらいのがスーパーマーケットにとってのチラシなんです。この点があまり認知されていないような気がしますね。」
では、紙のチラシをPDF化し、デジタルチラシとして存続するのであれば問題はないのでしょうか。デジタルチラシなら、紙のチラシが担ってきた業務連絡指示書、事業計画書としての役割は補完できそうです。しかしその場合にも懸念点があると、堀合さんは指摘します。
「確かにデジタルチラシなら、紙のチラシの代わりとなれるかもしれません。けれど、まるっとデジタルへと移行すればすべて解決という考え方は、根本的な問題から目を背けているような気がします。いま各分野で叫ばれているDXとは、単純にアナログをデジタルに置き換えるだけの施策ではないはずです。
私は、現在のスーパーマーケット業界で起こっているチラシのデジタル化を『苦肉の策』と位置づけています。なぜなら、多くの企業・店舗が必要に迫られ単純にPDF化したそれを、デジタルチラシと呼んでいるからです。Google Mapが国土地理院の地図をそのままデジタル化したものかと言えば、そうではないですよね。アナログだからできること、デジタルだからできることを考え、場合によってはアナログも残していく。これが本来取り組むべきDXの形だと私は考えています。それぞれの長所・短所を把握しつつ、適切な形で一部ないしは全部をデジタル化する。その先にこそ本当の意味での課題解決があるのではないでしょうか。」
紙のチラシとデジタルチラシ。それぞれの長所とは
アナログとデジタルは、対立関係で語られる機会の多い仕組みです。スーパーマーケット業界も例外ではなく、かねてから紙のチラシを削減・廃止し、デジタルチラシへと移行する方向でDXの議論が進んできました。「それぞれの長所を理解することで、チラシの役割を保ちつつ、より有意義な方向性を模索できるはず」と語る堀合さん。紙のチラシの長所はどのような点にあると考えているのでしょうか。
「まずは一覧性が高いことですね。限られた紙面にたくさんの情報が詰め込まれていても、視覚的に無理のない形で閲覧できるのが紙のチラシです。デジタルチラシはユーザーの環境によって見え方が変わるため、狭いスペースに情報を詰め込むと、視認性が損なわれる可能性があります。限られた紙面からあれだけの情報が受け取れるのは、紙のチラシならではの良さだと思います。
また、お客様の時間を独占しやすい点も紙のチラシの長所ですね。デジタルの場合、閲覧している最中に他の通知が届くこともあり得ます。もしかしたらそのタイミングで、お客様の目はチラシから離れてしまうかもしれない。紙のチラシは手に取られさえすれば、お客様の納得がいくまで見てもらえます。紙という形のあるものがお客様の手元に届き、モノとしてそこに残ること自体が、紙のチラシの長所とも言えるかもしれませんね。」
一方のデジタルチラシにもさまざまな長所があると、堀合さんは続けます。
「想像しやすいところでは、紙面の広さを限定されない点、修正が容易である点などでしょうか。私が過去に勤めていたスーパーマーケットでは、一度の折込に数百万部ほどのチラシを印刷していました。掲載内容に間違いがあると、お客様への謝罪や回収といった対応に追われる上、場合によっては、大規模な損失につながることもあり得ます。もちろんチラシはお客様との約束事項なので、デジタルであってもミスは許されません。けれど、間違いに気づいた時点で正しい情報に修正できれば、こうした対応も変化するはずです。
掲載する情報に深さを持たせられる点も、デジタルチラシの長所だと思います。商品ごとに個別のリンクを用意することで、生産者のプロフィールや収穫時期、価格推移、旬、料理のレシピなど、付帯するさまざまな情報もあわせて提供できます。そうして集まったお客様の閲覧データを分析すれば、これまでにない形でのマーケティングも可能となるでしょうね。」
チラシをリッチメディアに。アナログとデジタルの共存が照らし出す業界の未来。
人口減少が続く社会で、スーパーマーケット業界は岐路に立たされています。オンラインショッピングの台頭、大手小売企業の業界への参入、コロナ禍における販売機会の制限など、実店舗への向かい風が強く吹くなか、これまでと同様のビジネスモデルを続けていては、業績の下降を指をくわえて見ていることにもなりかねません。直近では、社会情勢に由来するコストの肥大化も業界を苦しめています。
デジタルはこうした喫緊の課題を解決する手段となり得るのか。堀合さんはスーパーマーケット業界、さらにはチラシの今後について、こう締めくくりました。
「ともすると、アナログを完全に代替するものとして語られがちなデジタルですが、実際にはアナログの方が向くケースも多々あります。最終的には適材適所。それぞれの長所を踏まえて活用することが運営の最適化につながっていくはずです。
もちろんスーパーマーケット業界にDXが必要という前提は変わりません。けれども、デジタルは魔法の杖ではない。移行してうまくいくこと、変わらないこと、うまくいかないことを区別すると同時に、アナログだけに頼ってここまで来てしまった業界の体質を少しずつ変えていくことも必要だと感じています。
業界においては、チラシの制作と運用が店舗運営全体と密接に結びついてきた過去があり、現在もそうした状況は変わっていません。だからこそ、この部分にデジタルの要素や考え方を取り入れることで、業務全体に前向きな影響を与えられる可能性もあります。
スーパーマーケットにとってチラシという媒体は、お客様に対して発信できるコンテンツの集合体なんです。チラシとデジタルそれぞれの長所をよく理解したうえで、チラシのDXに取り組めば、お客様のよりよいお買い物のお手伝いにきっとつながると考えています。
私たちは、デジタルチラシのプラットフォームとして、チラシのアップデートをめざす小売様と一緒に進化に挑戦していきたいのでご興味がある方は、小売様もメーカー様もぜひお声がけ下さい。」
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この記事を書いたのは・・・
ユウキ
アーバンミュージックとミニシアターが大好きなサブカル男子。最近は飲食・小売のDXに興味津々。