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“広告”ではなく“メディア”としてお客さまに価値を提供しませんか? - リテールメディアの現在地【後編】

こんにちは。みんなのリテールDX編集部のヒロシです。

米国で発展の気配を見せているリテールメディア。店舗デジタル化の波が米国から日本へとやってきたように、今後日本でも注目が集まると予測されています。ただ、ワードとして「リテールメディア」という存在は知っていても、その価値についてはわかりにくいですよね?

本記事では、スーパーマーケットの購買データを活用できる広告配信サービス「RETAILSTUDIO AD」に技術を提供してくださった株式会社インティメート・マージャーの代表取締役社長 簗島 亮次さんをゲストに迎えて、広告として消費されている2023年のリテールメディアの現在地と、“メディア”として昇華すべき“未来”について、前後編の2回で語ります。

前編では、現在のリテールメディアが広告の“キャンペーン”として消費されてしまっている現状を紐解き、属性ありきのターゲティングではなく、購買データに基づくビヘイビアを捉えることでメディアとしての価値を見出すべきという結論まで行き着きました。今回は、デモグラフィックのセグメントでざっくりと分けていた時代から、購買データに基づいて商品そのものを欲するお客さまに対してどのようにアプローチすべきか、リテールメディアの真の価値について議論します。

株式会社インティメート・マージャー 代表取締役社長 簗島 亮次氏(右)と望月 洋志(左)

簗島 亮次 氏
株式会社インティメート・マージャー 代表取締役社長
慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科を2010年首席で卒業。
2013年、Googleのレイ・カーツワイル氏が2020年に起きると予測した「あらゆるデータがひとつに統合される」という革命を冠した株式会社インティメート・マージャーを創業し、2019年10月東証マザーズへ上場。2020年にはデータ活用領域のさらなる拡大を目指し、Fin Tech事業会社クレジットスコア株式会社や、Privacy Tech事業会社Priv Tech株式会社を設立。データサイエンティストというアカデミックな視点と経営者としてのビジネスの視点から、日本最大級を誇る約4.7億のオーディエンスデータを用いてさまざまな業界の課題解決を支援している。

望月 洋志
D&Sソリューションズ株式会社 
セブンネットショッピングで小売企業のネットスーパー(店舗在庫モデル)やネット通販(倉庫在庫モデル)のマーケティング・立ち上げ支援ののち、博報堂プロダクツに入社。大手流通グループのデジタルマーケティングや、スーパーマーケット向けのスマホアプリソリューション「Katta!」の立ち上げを行う。現在は食品卸の日本アクセスの子会社であるD&Sソリューションズで「情報卸」を推進。リテールメディアネットワークの構築に邁進中。

理解を促進する記事コンテンツの有効活用法は「ネイティブアドネットワーク」

簗島:
(「購買ビヘイビア」によって購買プロセスを捉えやすくなるという前回の望月の見解に対して)そうですね。購買ビヘイビアによってプロセスが可視化されることで、広告に接触してフリークエンシーが高いからアシストしているということがわかりますし、そこを見える化することで、リテールメディアの配信の仕方やクリエイティブの作り方が変わりそうな気がしますよね。

世の中的に、テレビ放映で禁忌とされる「サブリミナル効果」の瞬時の映像挿入に対するアレルギーはすごく強いと思うんですけど、一方で「広告のアシスト効果はない」という人もいっぱいいる。もちろん、表示されるコンテンツの長さに違いはあるものの、本当に一瞬しか表示されない「サブリミナル効果」に効果があるというのであれば、広告のアシスト効果って十二分に存在すると思うんですよね。

望月さんと普段から「アシスト効果のKPIを作れないかな」と話に上がるんですけど、そもそも(前編で話題になった)「購買しか追わなくなる」という状況って、「山に雨が降ったから海に水が流れた」という説明でしかないんですよ。しっかり購買ビヘイビアが追える状況になれば「山に雨が降ったら、水が土に染み渡って川を作り、川が合流して海へと流れ出る」というプロセスまですべて可視化されるわけです。

これを購買プロセスとして捉えるならば、「今、ここまでお客さまは来ているけど、成果としてはここまでしか結果が出ていない。その先に進んでいないのでボトルネックになっている」という結論を見いだせるんです。見えるものが増えれば、アシスト効果のように“見えていない”ものも増えてくると思うんですけど、そこをしっかり埋めていくのが僕らの仕事だと思っています。

望月:
「効果の中身を追求したときに、認知や理解が購買の手前にあることがわかってくる」って、小売企業がアプリ内でタイアップを実施した時に露骨に成果として出ますよね。

「CVRが2000%まで行った」なんて平気で成果として出てきますけど、結局、小売企業の皆さん自身の理解が凄まじく進むから、この結果が出るんですよね。

※CVR(コンバージョンレート)...Webサイト訪問者のうち、購入や問い合わせなどそのWebサイトの最終成果に至った件数の割合のこと

簗島:
その成果を、いかに広くお客さまに知ってもらえるかって取り組みは大事ですよね。そういう意味では、外部ネットワークにコンテンツを出せばいいんじゃないかなと、記事配信の形で。

望月:
記事体のネイティブアドネットワークは、確かに有効かもしれないですね。

簗島:
まあでも、そもそもどこもやってないですよね。データを元にOutbrain(アウトブレイン)を使ったりしたらいいのに。

Outbrain…ユーザーが読んでいる記事と関連が深いか、普段どのような傾向の記事を呼んでいるかなどのデータを学習し、広告を配信する仕組み(DSP)

望月:
確かにやっていないんですけど、それって広告配信に足るだけの記事を作成することが難しいという前提もあるからだと思うんです。

実は僕らも大手食品メーカーさんやそこの代理店さんと一緒に、タイアップ記事などの媒体連携の広告を検討したんですよ。でも皆さんタイアップをやりたがらないんです。クリエイティブにこだわった方が効果が出る可能性は高いんですが、現場担当者が工数的にやりたがらないんです(笑)

タイアップ記事を作ることは大変ですけど、記事を書くための単価はめちゃくちゃ下がっていて、それこそ昨今話題の生成系AIを活用すれば1本の記事を1分で書けるなんて時代が来るかもしれない。もちろん、AIに頼んで終わりなんてクオリティのハンドリング、リスクテイクという意味ではもう少し先の未来かもしれませんけど、記事を作成するハードルは確実に下がっているから、LPに近い記事を量産する時代はもうすぐかもしれませんね。

あとは、単純にバナーだけ出して認知を取るという広告主もいますが、それだけではなかなか商品価値を理解するのは難しいと思うんです。認知や理解は購買のプロセスの手前なので。ただもちろん、飛び先あってのバナーなので、その飛び先に、記事に相当するようなLPがあれば、理解されるということはあるはずだし、それも一つの手かなとは思います。

簗島:
もうちょいネイティブアドに流れても良さそうだと思うんですけど、課題はネイティブアドネットワークに連携しようとすると連携先が限られるし、デバイスIDではなく、IM IDとかと連携する必要があるので、それも含めると面倒くさいんですよね。ただ、そこらへんは僕らも連携に慣れているので、トライできると面白いかもしれないですね。

理解を促進するコンテンツと広告の役割の違い

簗島:
少し話の方向性が変わるんですけど、望月さんにこの前教えていただいた「ごま油の人気ランキング」の記事を見て、結局1位の商品を買いました(笑)

その体験を自分なりに紐解いてみると、記事をちゃんと読んだら自然と、そのまま商品購買に行き着くんですよね。特に日用品、食品とかって、記事の切り口が多面的だったら、口コミまでは確認するかもしれないけど、企業の公式サイトまでわざわざ見に行く人は少数なんじゃないかなと。

望月:
そこまで言うと怒られるかもしれませんが(笑)

簗島:
たしかに(笑)
今回の例で言えば、商品によって1000〜2000円も変わるのであればまだしも、数百円程度であれば「誤差かな?」と思う人も少なくないでしょうし、少し高くても「評価が高いなら」と一定の根拠に基づいておすすめされた商品を買うって人は多いと思うんです。

望月:
単純に価格だけで商品を選んで、外したくないみたいな感情ですよね。

簗島:
そうそう。「私のポリシー」が明確にある日用品って少ないですし、そうした商品で選ぶ根拠は何かと考えると、コンテンツの情報価値はかなり高いんじゃないかなと思うんです。

望月:
その話で思い出したんですけど、うちのメンバーがクライアント企業の商品が気になったと話していたんです。言い方が良くないかもしれませんが、「これまでは」その商品のジャンルを熱心に比較して選んだことないよね?という商品を。でも彼は、結局そのクライアント企業の商品を買ったと。

もちろん、クライアント企業の商品だからというバイアスもあると思うんですけど、その商品について詳しく知らなかったら、スーパーマーケットの店舗でその商品ジャンルの棚に行き着いて、その商品を手に取るなんてことは恐らくこれまでなかったと思うんです。当たり前のように棚に並んでいるものを、マジマジと見て商品比較を始めるのかと考えると、僕らがアプリの中でしていることは、来店前にアプリで接客をしている、つまり小売店舗に繋げてお買い物行動に影響を与えられるよねと思うんですよね。

簗島:
全くもって同じ意見です。

望月:
「何で興味を持ったのか」って話は結構大事で、スーパーマーケットで「何を見て買いましたか?」といったアンケートがあるじゃないですか。あれを見てみると「テレビで見た」とか「SNSでバズってた」といったパターンがとても多い。テレビの広告価値に疑問が呈される時代においても、テレビの効果ってめっちゃ高いんですよね(笑)。それは、自分で具体的な商品・ジャンルをイメージして、確認するまでの行動が手間だから。

簗島:
テレビにCM出稿していないから商品価値や販売ポテンシャルほど認知度が伸び悩んでいるんじゃないかと思う商品は多い。というか、無限大に存在すると思います。

望月:
そうそう。CMに出す予算がない企業ほど、リテールメディアの概念を理解してもらうことが大事だと思っている。昔から思っているのは「理解してもらう対象者」って、「ターゲティング」という言葉と逆サイドの発想だということ。ターゲティング広告って、効率重視で突き詰めていく機能なんですけど、本来の広告の役割って興味がない人に「面白そう」と振り返ってもらうことができることだと思うんです。

その役割を果たせる存在が、記事であり、ネイティブアドネットワークへの配信なんじゃないかと。「へえ、そうなんだ」から「面白そう」、そして「買ってみよう」という認知→理解→購買というプロセスを通常の広告の中に組み込むことが、リテールメディアとしてなすべきことなんじゃないかと。

簗島:
テレビCMだと中身を言うことよりも、商品名を認知してもらうことを前提にする。でも、Webタイアップだと効果を見ながらPDCAを回すことを前提にすると、CMと異なる素材が必要になるということが自然とわかるんじゃないかなと。

「CM素材を使って」と言われてWebチームにデータを回されても、身動きしづらいですよね。自分たちで作れる素材があったほうがいいし、SNS全盛のいまはコンテンツに力を注いで、メディアにコスト投下する費用は抑えるというところも少なくないです。

YouTubeなんかもそうで、制作に対する熱量が高いほどエンゲージメントは高まるし、内製せずに外部で回してきた会社とは、コストやスケジュールの見通しが立てにくいから、どんどん格差が開いていく。「広告業務だから」と外注だけでコンテンツを回してきた会社は大変になってくる、そんなターニングポイントが来るんじゃないかなと思っています。

最近の新卒社会人は、動画で検索するパターンが結構多いんですよ。顧客接点として動画をそれほど高くなく作れる時代に、企業と消費者のタッチポイントとしてそこにコストを透過しない手はないし、そこにRETAILSTUDIOの価値が出てくるのかなと。タイアップが手間という先程の話はありましたが、手間があるならその工数を減らすか、手間でも“一粒で二度美味しい”ように色々な切り口で価値が出るように使っていくことが大切。後者において、RETAILSTUDIO ADが寄与できることって多分にあると思います。

“ウザい広告”ではなく、“人が集まるコンテンツ”を

簗島:
広告がウザいという話はいたるところで聞くと思うんですが、アプリのエコシステムを紐解くと「消費者は何故データを提供しなきゃいけないんですか?」という問題にぶつかりますよね。

アプリユーザーを頑張って増やして、顧客単価を上げるために小売のデータの使い方を色々と考えたいんですけど、じゃあ「ユーザーがいっぱいる!ありがとうございます!お金に変えさせてください!」みたいな話だとユーザーはさーっと引いていくわけで。それが、今の小売のデジタル戦略であり、リテールメディアの現状なんじゃないかなと。

望月:
それはすごくわかります。色んな所で話をしていると、今のリテールメディアには文脈がなくて、広告しか出てこない。メディアという言葉を使うのに、メディア事業の話が出てこない。

簗島:
もちろん、ターゲティングやCRMの話が出てくるのはトレンドというか当然の話だと思うんですけど、「そもそも、ユーザーが溜まる母艦をどう作るんですか?」という話を、もっとしてもいいんじゃないかなと。

望月:
思います。例えて言うならば、新聞って有料購読じゃないですか。全部広告だったら買わないですよね。

簗島:
当たり前の話ですね(笑)

望月:
メディアというからには、先にコンテンツがないとだめで、ユーザーがほしいコンテンツをちゃんと作れるようになることが重要。だから人が集まるし、だからアクティブユーザーが増えて、だから広告が売れる。今は広告だけが先行してしまって、「あれ?メディアって広告からスタートするんでしたっけ?」という疑問が。

簗島:
そう。焼畑農業になっているんですよね。僕らは広告云々よりも「小売が儲かるにはどうすれば良いのか」をクライアントと議論することが多いので、その前提をどう作っていこうという視点で考えた時に、コンテンツが先なんじゃないかなという思いが強く出てくる。

望月:
そうですね。

簗島:
データを提供して収益化するだけ、というよりも第三者視点で小売とユーザーがハッピーになる未来を考えないと、看板を出したい会社も増えていかない。そこを変えていかないと。

望月:
そこはインティメート・マージャーさんと同じ目線でやれているかなと思っています。
実際問題、ID POSと広告のIDって、商品一つ一つのレベルでシンクしている会社は多くない。その点、小売業が僕らのRETAILSTUDIO ADの仕組みを追加料金無しで使えるのは大きい気がしているんです。

簗島:
ユーザーが増やせる場所に対して、コンテンツを配信できる我々の仕組みがうまく使ってもらえるといいですよね。ユーザーがいない場所に広告は載らないけど、データを提供して、費用をいただけるというのは小売企業にとって大きい。

望月:
僕らのポジションは、小売業界の皆さまの役に立てるという自信は持っています。データを収益化しませんか?という話よりも、まずは僕らと組んでもらって「どうユーザーにハッピーになってもらえるのか」を第一に考えたい。だから、リテールメディアなんじゃないかと。

簗島:
そうですよね。理想的にはレベニューをデータ費用で払ってもらって、アプリ内で巡回してもらい、最終的に小売企業が儲かってもらえるなら、ユーザーも増えていく理想形が作れると思うんです。いまの小売アプリの現状って、一つの企業でアプリが複数乱立していて、お客さんが全体的に回遊できていない状況がほとんどなので。

望月:
「クーポンは現在ありません」と表示されるアプリが山ほどあるのが実情ですよね…。

簗島:
そうなんですよ。だから僕たちは小売のアプリをしっかり育てられるように伴走したい。現状はアプリ担当者がまともにいないし、関わっている人たちは「データを売りたい」「広告メニューを作りたい」ありきで、ずっと話している「広告しかない場所に人は来ない」となっている。

母艦となるアプリでユーザーが増えれば、店舗で買ってくれている人とアプリを使っている人の乖離も減るし、そうなればお客さまの“教育”によって売上もリニアに増えるし、またコンテンツへの還元ができる。そうすれば、アプリで「メーカー特集」なんてものを組んで、
その場でスポンサードしてもらうこともできますよね。コンテンツに価値を産めることになる。

望月:
これからやっていこうとしている「ブランドアカウント」のイメージに近いですよね。提供した場所に対するスポンサードの考え方って小売業と相性がいいと思うんです。それは小売業が「場所を提供する」という機能性を元々持っているから。それってプラットフォームでもあって、自社商品はお惣菜コーナーとかでそこそこに、大半はNB(ナショナルブランド)。本来、「人を集めるから、メーカーさん集まってよ」という形が得意なはずなんです。でも、リアル店舗だとその考え方をとことん突き詰められるのに、アプリになるとその発想が活かせないところが多いのがもどかしいところ…。

簗島:
アプリでユーザー数の多い小売企業がいないんですよね。アプリって便利だし、みんなサクッとブランドに接してくれるのに(笑)。僕なんかはクーポンが好きで、ブランドありきというよりもクーポンありきで買い物してしまうことが少なくない。コスト計算に敏感な家庭も多いのに、本来UUベースが多いはずの小売のアプリがとても少ない。そこの課題をしたその先に、好循環が生まれるんじゃないかなと期待しています。

望月:
広告でユーザーの離反を招く現状のリテールメディアから脱却して、メディア事業としてあるべき姿を機能としてしっかり用意できるように僕たちはサポートしていきたいですし、溜まったデータを小売やユーザーに還元する取り組みを、RETAILSTUDIO ADのオリジナリティとしてさらに進化させていきたいと思います。

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この記事を書いたのは・・・
ヒロシ
仕事で対面の機会が増えてきたのに、湘南へ引っ越したアラフォー一歩手前の映画好き。現金決済が苦手で、現金オンリーの店は避けるタイプ。

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